アナーキー☆セブン 【Final episode】
〔12〕
再びコンパスから座標を聞いて、金庫へとダイヴする。子供達は金庫の前で、鎖にがんじがらめに拘束された状態で転がされていた。見れば、リアルでいうところの眠っている状態で、あの女に何かウィルスを打たれたに違いない。
道具箱から覚醒のための注射器キットを取り出し、マナブ、ユナ、ナギサに打っていく。三人の身体に巻き付いていた鎖を解いてやると、全員がゆっくりと目を覚まし始める。
「気分はどうだ?」
ぼんやりした状態の三人は、俺の姿を見て目を見開いた。
「兎羽野さん! 無事だったのね!?」
「ああ、大人の悪知恵ってやつさ」
冗談めかして返すと、ナギサが泣きそうな顔で俺に抱き着き、彼女を宥めるように軽く背中を撫でて言う。
「詳しい話は後にしよう。とりあえず、リアルへ戻ってくれ」
三人はログアウトしようとして、ケンがまだ拘束されたまま横たわっているのに気づいて、目を瞠った。
「大丈夫だ。ケンもすぐにログアウトさせる」
「分かりました。よろしくお願いします」
俺が言うと、マナブが軽く頭を下げ、三人がログアウトしていく。その姿を見送り、俺は眠ったままのケンを横抱きにして、移動を開始する。
ここよりも深く誰にも邪魔されない場所、
移動した先は、俺のセーフハウスの一つとして構築した空間だった。ログハウス風の内装で、外は鬱蒼とした樹々に囲まれている。
暖炉に薪をくべ、カウチに横たわるケンを見やる。ケンを見ていると、何となく、自分が思春期の頃を思い出す。
生意気な口は利くし、妙に反抗的なクソガキ……まさに少年時代の俺みたいだ。妙にこまっしゃくれたところがあるケンだが、寝顔は年相応に幼く健やかだ。
俺と真莉奈に子供がいたら、どんな感じだったろう……ふと、そんな考えが過り、それを押しやるように、弱く頭を振る。
今はそんな感傷に浸っている場合じゃないぞ……自分に言いきかせると、ケンが小さく身じろぎして、目蓋を上げる。
「起きたか」
ケンはぼんやりとした面持ちで身体を起こして、辺りを見回していたが、こちらに気付いてぎょっとしたように息を呑んだ。
「オッサン……死んでなかったのか……?」
「ああ、見てのとおりだ」
俺はカウチの前に置かれたロッキングチェアに腰を下ろし、ケンと向かい合う。ケンは未だに信じられないといった面持ちで俺を見つめている。
「……シャドウというダイヴ技を使っていたんだ」
「凄えな! シャドウって……あの、スピリットを分身の術みたいにするやつだろ!? できる奴はほとんどいないってやつ……!」
「習得にそれなりの年数が掛かるだけだ」
そんなことはどうでもいい、と軽く手を振って、ケンの方に身を乗り出す。
「何故、俺がお前をここに連れて来たか分かるよな?」
「ここは……どこ?」
「深層階層にある、俺のセーフハウスだ。俺が構築した山の中にあって、お前一人ではリアルには戻れない」
脅しめいた言葉に、ケンが緊張した面持ちで窓の鬱蒼とした樹々を見やり、深く溜息をついた。
「ケン、お前が正直に白状すれば、すぐにリアルに戻してやるぞ」
「……分かった」
「よし、いい子だ。さっき俺を襲ってきた、アサシンダイバーとは知り合いなのか?」
「知り合いというか……俺達に連絡が入ったんだ。指示通りに動けって……言われた通り、博物館から抜け出してバスに乗り込んだら……いきなりライドが暴走しはじめたんだ。おまけに、爆弾が仕掛けられていたなんて……知らなかった」
「よく知りもしない人物の指示通りに動かなければならないような……何か、言う事を聞かないといけない理由があるのか?」
「言う通りにすれば、俺達が知りたい事を教えるって言われて……それで……」
ケンは言葉に詰まって、俺から視線を逸らす。しかし、覚悟を決めたように眉間に皺を寄せ、くしゃりと顔を歪めてこちらに顔を戻す。
「なあ、オッサン……カケルの事を助けてよ……!」
「……カケル?」
ケンが涙の滲んだ瞳をこちらに向け、俺は思わず眉根を寄せた。
ログアウトをしてゴーグルを外すと、すぐにリードの顔が飛び込んでくる。こちらを覗きこむようにしていたリードがほっとしたように安堵の吐息を漏らす。
「お加減はいかがです?」
「……アスピリンが欲しい」
こめかみに埋め込んだチップに負荷が掛かっているのだろう。鈍く痛みを発しており、ゆっくりと揉むようにしながら、辺りを見回す。おそらく救護テントの中だろう、バスから簡易ベッドへ運ばれていていたらしく、ゆっくりと上半身を起こす。
ケンはきちんとログアウト出来ただろうか? 視線を巡らせれば、少し離れた簡易ベッドの上で、彼も身体を起こしていた。
「他の子供達は?」
「皆、ログアウトできています。もう一つの救護テントで、念のため医療班のスタッフが診察していますよ」
「……そうか」
ふと腿の上に、畳まれたハンカチが乗っかっているのに気づいて、訝りながらそれを手に取る。皺ひとつない淡いグレーのお高そうなそれには血が付いていた。
「口の端から血が出ていたので、とりあえず、ハンカチで止血していたんですよ。あ、使っていないものですから、安心してくださいね」
にっこりとするリードに、俺は「マジかよ……」と声に出そうになるのを飲み込んで、吐息する。気を取り直して、俺はリードを見やった。
「なあ、ちょっと調べてほしい事があるんだが……」
「ええ、いいですけれども……なにを?」
「
ふと視線を感じてそちらに目を向ければ、ケンがこちらを見つめており、俺は安心させるように小さく頷いてみせた。
「ああ、そうだ……スマイリーボンバーはどうなった?」
「……額に一発、撃たれて死んでいました」
「そうか……バスにベレッタがあったと思うが、それで撃たれた可能性が高い」
ララベル事件の葉月芽衣を襲ったのもあの殺し屋の女かもしれないな……そんな事を考えていると、リードが小さく吐息を漏らした。
「兎羽野さん、そろそろ全てを話してくれませんか……?」
「全て、ね。それは、上司命令か?」
片頬を上げて笑うと、リードは真剣な面持ちでこちらを見つめ返している。俺は痛むこめかみを揉みながら「どこから話せばいいんだろうな……」と小さく呟いた。
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