第4話禁断の実

「あたしを盗みに来た?はあ?」


チェリーは呆れたように溜め息を吐き、指でターゲットを指し示す。


「ソイツが見えないの?」


「見えてるけど」


「どうなってる?」


「死んでる」


「なんで?」


「チェリーが殺したから」


首を傾げ、不思議そうにチェリーを見つめる怪盗アップル。

チェリーは血のような瞳で彼の碧い宝石を射抜く。


「あたしは、こんな事してんだよ?なんで盗む訳?助手でも欲しいの?」


「え、なんで?」


「…」


「オレに助手なんかいらないでしょ?」


「はあ…まあ、そうだと思うけど。で?アンタがあたしを盗みに来た理由は?」


「気に入ったから」


「は?」


「逆に盗む物に理由なんているの?いちいちさあ」


「まあ、ないでしょうね。せいぜいスリルを楽しみたいって所でしょ。」


「そういうこと!」


いい笑顔で親指を立てる彼に反してチェリーは眉をひそめた。


「…で、アンタはあたしを盗んでスリルを楽しみたいと?」


「失礼な!オレがそんな事するヤツにみえる?」


「寧ろ全然あり得る。」


「…で、キミは?オレに盗まれてくれる?」


「巫山戯てんの、アンタ。あたしがそう簡単にアンタと組む訳ない。」


「だよなぁ」


彼は困ったように頬を掻いた。


「じゃ、仕方ないな。…喰らえ!『林檎爆弾』!」


そう彼が叫ぶと共に響き渡る爆発音。


「最後は強硬手段!?」


チェリーはドレスを捲りホルダーから銃を抜き、警戒態勢に入った。

畜生、面倒な事になった。

まさか怪盗と直接対決とは流石にあたしも予想出来なかった。

一体どうすればいい?この場合の最善策は?


「オレに盗まれればいい!」


「そこか林檎野郎!」


────残念ながら。

チェリーは単純なのだ。

意外にも考えるよりも身体の方が動いてしまうことが多い。

また、幸福を追求する生き方をしている。

彼女は後先を自分に及ぶ物以外考えず、周りの幸せを願わない。自分さえ幸せならそれで良いのだ。

正に人間の本能に従って生きている人間だ。

今回、彼女はアップルを殺したいと思った。だから実行したのだ。一切の躊躇無く。


確実に声がした所を撃ったのに、何も反応がない。


────躱されたか。


チェリーは舌打ちをして残弾数を数えた。

……余裕があるな、なら声がした所の周囲に何発がぶち込もう。

避けられないはずだ。


「どうしたんだ、チェリー」


……今だ!


チェリーは確実に声がした所を1発撃ち、右にも左にも数発撃った。


……これなら、死んだかな。


「チェリー酷いなぁ」


「……やっぱり死んでないよね……」


チェリーは溜息を吐いて漸く良くなった視界でアップルを捉えた。

此奴は今まで色んな所へ行き、宝を盗んできた。

どんなにセキュリティが強化されても。

そして殺し屋業界で有名だった殺し屋を返り討ちにした。

そんな奴に、簡単に弾丸が当たる訳ない。


アップルはニッコリと笑ってチェリーの手を取った。


「オレに盗まれてくれるよね!」


大衆の前で彼が話す口調で問われる。

……はぁ。

先程の爆弾等はチェリーに実力を見せ付ける為だけのものだったか……


「分かった……組んであげるわ。」


「サンキュー!じゃあ……チェリーは頂くよ★」



────手にした果実は、禁断の実。



その事を、2人は後々知ることになる。






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怪盗アップルと殺し屋チェリー 狂人 @natsumi0818

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