第3話お前を盗みに来たんだ!

チェリーは屋敷の中に入った。

赤いドレスは殺しには不向きだが、関係ない。

自分が気に入っているものを身につけているだけだからだ。

彼女は、自分を大切にしていた。

自分なんか…というような思考など持たなかったのである。

ターゲットは、屋敷の使用人。

依頼者は屋敷のお嬢様。

理由は主人が使用人と浮気をし、母を無視したから。

……人間らしいな。


派手な爆発音が聞こえた。


…怪盗アップルだな。


時間まで被るとは忌々しい。

さっさと殺人を済ませて終わろう。

そうだ。今日は自分の好きな紅茶を買って来よう。そして自分が好きなケーキを買って食べよう。

自身の好きなもので思考を満たせば、彼女の口元には笑みが浮かぶ。

ドラマを見よう、とびっきり甘い。

苦いものは、嫌いだ。

あたしの好きなものだけになればいいのになぁ、と幼稚な事を考え微笑む。


さあて、仕事の時間だ。


さっさと赤い液体を拝んで帰ろうか。





「皆、元気いー!?オレは元気だよ!

今から予告通り『紅の瞳』を頂くよー!」


少年が手を振ると何処からか黄色い歓声が上がった。

彼は美少年な故、ファンが多いからだ。

「皆いい子だね、ご褒美だよ★」

チュッ、と少年が投げキッスを飛ばすとまた湧く黄色い歓声。

その声に満足気に笑うとシルクハットを取った。

煌びやかな金髪が現れる。

その中から少年は林檎を取り出した。

赤く輝くその林檎は、爆弾である。


「んー…ショーは今日はこれくらいしかできないんだよねぇ」


ファンのガッカリした様子に少年はニコッと笑い、

「大丈夫。次はこれの倍やってあげるね!だから…お★る★す★ば★ん!

できる?まあ、できるよね!オレの可愛い可愛い子猫ちゃんだし!」

少年はシルクハットを下げ、深々と礼をした。


「今日はありがとう!それじゃあまたね!皆…愛してるよ!」


派手に爆発音が響いた。




任務完遂。さあ、帰ろう。

いつまでもこんな所にいたら苦くなる。


「お嬢ちゃん、物騒な顔だな!」


「はあ!?」


失礼な、殺してやろうかと思い振り向いて絶句した。


白いスーツ、白いマント、白い仮面、金髪、碧い瞳。


整った顔、手元の…林檎。


「怪盗…アップル…」


「そうだ、オレがアップルだぜ、お嬢ちゃん!あ、お嬢ちゃんはチェリーだっけか?」


なんで、あたしのことを知ってんの?


なんで、なんで、なんで?


「オレの可愛い子猫ちゃ……!?」


無言でチェリーがアップルの腹を脚で思い切り蹴るも、躱された。


「危な…乱暴だな、照れてるのか…」


「帰って。なんであたしの事知ってんの」


「同じ未成年犯罪者だから!」


「堂々と言える事じゃないでしょ。」


用は何?とチェリーが聞くとアップルは笑った。


「チェリー…お前を盗みに来た!」


「…はあ?」



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