ADHD マン、継続的執筆を語る。

これまで世説新語をきっかけに「毎日漢文訳」を進めてきた。三年間の継続で、振り返れば漢籍翻訳は百万字を越え、他方では物語書きも、間もなく三十万文字に届こうかという規模で書けている。ADHD 持ち、つまり行動で言えば「飽きっぽい」人間でありながらこれだけの規模のものを作り上げられたのは、それなりの実績と胸を張っていいのかな、と考えている。


これからもこれを大きくしたい、もっとできることを増やしたい。そう考え、一度これまでの取り組みを整理しておこうと思い立った。



○ADHD マン俺


ADHD マン、なにかにつけ物事を長く続けることができない。これがものづくりにもたらすものは割と致命的である。「構想ばかりがポンポンと思いつき、実際の作品にしようとする段階には飽きている」のだ。なので、自分は長い物語が書けないでいた。


これを、どうにか解決したい。


ADHD とは、2つの行動性質、すなわち「注意の欠如」「多動」によって「実際の生活に障害を感じている」人間を指す。振り返るだに、幼児期の行動、学生時代のポカ、社会人になってからのトラブル。そして「長いものを書けないこと」。これらすべてが、この「障害」によって説明がつくと知ったときには震えたものだ。


この現象が現れる人間の思考回路を、一言で言ってしまえば、「実際の行動に割り当てる思考領域が狭い」となるだろうか。思考能力そのものに問題があるわけではない。ただし、作業をする机が小さいため、何らかの作業をしているところに別のなにかが降ってくると、たちまち別のものに意識が絡め取られてしまうのだ。


ものづくりをしたいと思っている人間にとっては、ある意味で強みでもある。際限なく、様々なものに興味、関心が湧くのだ。結果的に自分は小説を書くほか、絵を描くし、音楽も作るようになった。それはそれでいい事だ。けれど、すぐに「次」に行きたくなる。完成度がある程度のところにまで行けば次の何かを始めたくなるし、少しでも進捗がきつくなれば、なんとなく気になっていたものに逃げ出す。


あまり胸を張って言うことではないが、自分の作品、ことに絵や音楽は、着想力についてはさておき「完成度」の面で、どうしても他の方々に見劣りしてしまう。それもこれも、「次」に行きたくなるが故だ。この点については将来どうにかしたいところだが、現状棚上げしている。「続ける」ことに比べると解決策が見出しづらいためだ。なので、完成度ではなく、あくまでいまは「続けること」にのみ主眼を置いて活動をしているところがある。



○「机」との付き合い


様々な作業をするための「机」が小さい。この問題をどう解決するか。実は薬がある。ストラテラとか、コンサータといった薬は、「机」を広げ、作業効率を上げてくれる。が、「治す」ものではない。となれば、自分の自然な脳の作りに不自然な負荷をかけることになる。なので、薬に頼るのは、怖い。小さいまま、どう戦うか。そちらを考えたほうが良さそうだ、となった。


行き着いた答えは、「机」の邪魔にならない程度に作業を細かくし、それをちまちま進めること、だった。つまり、自分のもとに他の何かが降ってきても、「まー、いつもやってることはちゃちゃっと終わるし、その後でいっか!」と思えるくらい、作業を「楽なもの」にするのだ。


その際、テーマは以下のようになる。

 ・頑張るな。

 ・楽しろ。

 ・根詰めるな。

 ・追求しすぎるな。

 ・手抜きしろ。

「頑張る」という言葉は、やばい。「頑」は固める、といったニュアンスだし、「張る」もまた緊張を強いるもの。良くない。続かない。


ADHD 人間に時折「超集中」という状態が起こる。これが一旦始まるとものすごい量の作業を、ものすごく短期間でこなす事ができる。確か一晩で三万字くらい書けたことがあったように思う。っが、それをやった後、半年は何も書けなくなった。脳が疲弊しきったのだろう。


これまでの自分は「その気になればあんなに頑張れたのに、どうして今はそれができないんだろう」と悩んだものである。今ならこう言う。「そりゃ頑張っちゃったからでしょ」と。頑張って、つま先だって、全力で走った。そしたらバテた。当たり前のことだ。人間、猛ダッシュで走るより、歩いたほうが長い距離を行ける。これはどうやら、脳みその回転でも同じことが言えるらしい。そんなことに気付けたのも、お恥ずかしながらつい最近なのだが。


負担をかけない。楽をする。これがどうやらキーワードのようだ。そんな姿勢でも、続ければ量になる。なので自分は「楽にやれるもの」を探した。


それが「世説新語」だった。



○カクヨム漢文翻訳ごっこ


世説新語。漢文だが、その一条あたりは極めて短い。しかも原則一話完結である。さらに、以前気まぐれに古本で世説新語の全訳を手に入れている。「困ったときには丸パクリで行こう!」とスタートし、……まぁ、わりと早い段階で早まったとは思ったのだが、それでも「答えのある漢文で訓読と翻訳を行う」習慣を手に入れるのには、少なからぬ恩恵を頂いたように思う。


とは言え、一緒に楽しんでいただける方がいらっしゃらなかったら、たぶん途中でめげていた。特に世説新語を始めるにあたっては、馳月基矢、河東竹緖、両先賢がカクヨムにいらっしゃったことがきっかけだし、続けるにあたって様々な方との出会いをいただけている。なので、ここまで続けてこられたのには「出会いに恵まれること」という変数も非常に重要であったと痛感している。


ところで「世説新語」を続けている途中、こう感じる瞬間があった。「こんな楽なこと、変わりばえもなく続けて発展があるの?」。いま思うと、これはすごく重要な転機だったように思う。自分の中で、さして負担のかからない作業として認識が切り替わったのだ。つまり、世説新語の訓読及び私訳が、狭い机をさして専有しなくなった、というサインでもあった。


なので自分はここで一歩動きを拡張した。史書翻訳である。


現在展開しているデイリー晋宋春秋、デイリー中原戦記には前段階が存在している。「三國志蜀漢五虎将伝」である。既に訳がある程度存在し、そして、むしろこちらが大きい要素となるのだが、「いったん始めれば、それなりの注目度は確保できる」もので、ライトな史書翻訳を行う。世説新語とは違い、史書記述は長編である。そこをどう区切って展開できるかを、「みんなに見てもらいやすい環境で」試運転する。


なにせ、やる前から明確なことがある。「誰が見たいねん晋末宋初なんか」。そこを読みたいと思っていただくには、まず読みたい人間を開拓しなきゃならない。現在はその前段階だ。だから、せめて試運転の段階では、人の耳目を引くような人物でやっておくほうがいい。そう判断したのだ。実際にスタートしてみて、何人かの方よりポジティブな反応を頂戴した。ならば、今後うまく晋末宋初の人物が知られるようになったとき、ここから始めるものも、ライトに該当時代の人物で楽しんでいただけるきっかけになるだろう。デイリー晋宋春秋を、こうしてスタートさせた。



○これまでと、これから


今のスタンスを端的に言うと、「頑張らないで済むラインの見極めを、頑張る」となるだろうか。どこが「楽してできる」「手抜きしてできる」限界点か、この見極めには細心の注意を払っている。例えば、しばらく晋宋春秋と中原戦記で並走させていた史書翻訳も、少し続けた結果キャパオーバーと判断、それぞれを隔日更新に変更した。その代わり、詩経を開始。自分の現状のキャパでは、1翻訳+1勉強、という日課に劉裕その他を乗せるのが、「頑張らないで済む」ラインのようだ。


そのラインを見極めるには、いちど頑張ってみなければわからない。このとき「やっぱり無理だった」を素直に言えるといい。下がるのは難しいが、頑張ってしまった挙げ句、止まるよりはマシだ。


こいつを繰り返し、より「頑張らないでいい」ラインを引き上げていきたい。結果がここまで積み重なってきたものだし、いまの探求が将来に積み重なっていくのだろう。



○まとめ


ADHD マンは、続かない。すぐ別のものに気を取られるからだ。何かを成し遂げたいなら、そいつをこなすためのタスクを「別のものに気を取られてもすぐに戻れる」「特に負担にならないから、ルーチンをこなしてからそいつと遊ぶ」といった方向に持っていけるといいように思う。


その際に重要なのは、毎日続けても苦にならないくらい些細なタスクにまで細かくすること。また、それを繰り返して習慣化し、「苦にならない範囲」について過信することなく、確実に広げていけるのがいいように思う。


それはつまり、前掲の「頑張るな」「楽しろ」「根詰めるな」「追求しすぎるな」「手抜きしろ」だ。なにせ、できる人のようにはできないのだ。できない人なりに積み重ねるためには、できない人なりの手立てがある。


現在の自分のルーチンは、それだけを切り取ればかなりでかいものになっていると思う。ただ、そいつは小さいところから、手抜きに手抜きを重ねて積んでいったものだ。


「量をこなせば、質もついてくる」。そんな金言がある。立ち止まりさえしなければ、量は稼げる。ほっとくと俺ら ADHD やろうは「立ち止まっちゃう」のだ。なら、とりあえず立ち止まらずに済む、それだけを目指すのも大切なんじゃないかな、って思う。



そして、ここも書いておこう。ADHD マンは、間違いを絶対にやらかす。ミスも潰しきれない。不注意がデフォルトだからだ。2、3度確認したら、もう諦めたほうがいい。そして裁きを待て。


俺らみたいな人間にとっちゃ、ミスを指摘してくださる方は宝よりも得難い。そういう方と出会えたらマジ感謝だ。そして指摘いただけたミスは即直そう。溜めるとマジでだるい、と言うか間開けると忘れる。ご指摘いただいたこと、そのものを。


一日1文字から始める、 ADHD やろうの物書きロード。ここがスタートだ!

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