偉大すぎるぜ三國志1

 前回のまとめ。三國無双で「おっ曹操カッコよくない?」って思った人に三國志の漫画とか使ってその魅力を紹介しようとした人に、いきなり「この無知が!」って陳寿とか論文叩きつけんのやめてください。せめて三國志新聞とか横山光輝×23(文庫版のほう)辺りをさあ。将来的には裴松之でも論文でもいいからさあ。


 さて、そんなわけで三國志です。最近は消えちゃいましたが、三國志、以前のカクヨムでは「人気タグ」として君臨してました。


 とにかく、歴史ものを語るに当たって三國志のことを無視できるはずがありません。なにせ、中国史における各時代の存在感って三國志>>>それ以外のすべてですし。


 えっあの時代は人気だろって?


 現実見てくださいよ。たとえば、キングダムはそりゃ人気ですが、あれによって戦国末そのもののカテゴリ作品、カクヨムで増えてます? まぁ、「キングダムの二次創作小説」が解禁になったとしたら、作品数増えると思いますけどね。


 結局のところ、三國志というやつは、あまりにも強固に、圧倒的に緻密に、その時代で遊ぶためのシステムが組み上がってます。


 言ってみれば、三國志における趣向深度Iの方が、すぐに遊び始められる世界なんです。こんなん、そんな容易に模倣できるわけありません。


 いま、ああだこうださんやほしみやあかりさんといった魏晋南北朝周りの方が、カクヨム遊びを始めてくださっています。河東竹緒さんやははそしげきさん、コミナトケイさんの思索が凄まじいのは言うまでもなく。


 ただ、どなたも結局は魏晋南北朝期への深度がIII以上なんです。最初のお二方についてはTwitterで交流させていただいてますが、知識も勉強意欲も半端ないです。要は、元々すっげえはまっておられる方がカクヨムにも挑戦してくださっているという状態なのです。


 そいつはそいつで、とても嬉しいことです。ありがたいし、読みたいです。ただ、自分の野望はもうちょい踏み込んでます。


 ぼくは五胡十六国の物語がぽこぽこ生まれてきてしまう世界を望んでいます。ここには、II以下の方が作品を作りたいと思い、そして公開してもらえるだけのシステムが求められるんです。


 じゃあこれ、どうやったら作れるんでしょうね。


 そのヒントは、やっぱり偉大なる先達に求めるべきなんでしょう。つまりは、三國志。


 ここについての結論、実は一瞬で出てくるんですよ。「三國志演義よこせ」です。そしてこの結論は、あまりにも命題として巨大すぎる。


 ざっと三國志演義によってもたらされたご利益を考えてみましょう。



・歴史の流れを物語としてほぼ一元化した。


 何よりも破壊力としてヤバイのがここ。歴史なんてもんは複雑怪奇です。ワケわかんないです。因果関係なんてぐちゃぐちゃです。でもここを、ある程度、ではあるけれど、シンプルにできちゃうの。だって物語だから。

 一方で、これのせいで史実至上主義者からは叩かれることになりました。んなこと言われたってわかりづらいもんは分かりづらいんですけどね?



・人物たちをキャラクタとして成形。

 取り扱いやすくした。


 これはどちらかというと大戦とか無双が加速させてくれた感じはありますでしょうか。あとは蒼天航路。この辺りが各人物について、それぞれの解釈を開陳。またそこから演義、さらには正史へと踏み込む呼び水となり、各人物への考察を深める助けをしてくれています。

 ここもやっぱり重要。というのも人間、何かの物語に萌える時って真っ先に人物を語ります。まず、語りやすい人物が取り揃えられていないと、なかなか語れたもんじゃないです。

 大きな物語そのものを語るって、思ったより難易度高いんですよね。だから、桃園で一生劉備に添い遂げることを誓う関羽!→けど裏切った!→実は理由があった!→後日世話になった曹操には、敵なりの義理を果たした! ……みたいな、物語にとってはパーツにすぎないそれを、キャラが抱く哲学として語られているのを観測し、その感想を語るのです。

 キャラ語りは、言ってみれば自己投影が入ります。

 人間、一番語りたいのは、やっぱり自分のことでしょう。物語という流れのなかに、何らかの判断を下した人間がいる。なら、その人物の行動に自分を対照させた(※比較した、ではナイ)ことによって浮かび上がった思いを、語る。

 一度なにかを語り始めた人間は、語ったことの向こうに、さらに語りたいものを見いだせる、気がします。サンプルが俺しかいないからよくわかんないけど。まぁきっとみんなそうなんでしょう。そうって言え。

 welcome to the hell .


 

・物語上の名シーンが歴史を動かす。

 物語がもたらすカタルシス。


 上記二つの合わせ技みたいなもんです。人がいる。事態を動かす。結果として大きい出来事、例えば赤壁の戦いみたいなもんが起きる。

 実際のとこ演義における赤壁って何もかもがまゆつばですが、けれどもあの戦いによって曹操が天下を諦めた、っつー歴史認識は大体共有されているように思います。

 あのストーリーが、あの人物の判断、アクションが、大きく歴史を動かした、のです。こんなんどんな物語だってクライマックスですよなのになんで官渡スルーしてんの光輝。あっなんでもないです。



 以上、上質の物語、魅力的な人物、かつ、それらによって導かれる大転換点。ついでに言えば主人公の劉備が中山靖王劉勝の(数百人以上いる)子孫(のひとり)であることをアピールし、みんな大好き貴種流離譚のアレンジ系として仕立てるわけです。こんなん卑怯&卑怯&卑怯だわ。


 たくさんある中国史ベースの物語のなかで、三國志演義ひとつが突き抜けたのには、突き抜けたなりの理由があります。いや、ここについてはまだまだ踏み込みきれてないですけど。


 ただ現実として、突き抜けた作品を得たからこそ、そいつは日本でも大いに受け入れられました。吉川英治やべえし以下略以下略。


 ここで今のインターネッツ社会を考えれば、コーエーの存在こそがやべえ&やべえ、となりましょうか。いや、シミュレーション三國志にせよ、三國無双にせよ、自分を主人公に仕立てる、あるいは主人公にごく近い場所での観測をインタラクティブ的ににさせるって手法が与える没入感、半端ないと思います。


 さらに言えば、コーエーでも三國と戦国が二大巨頭になってて、それ以外は、こう言っちゃナンですがおまけ扱いなんですよね。つまりそれって、原作の強度。


 なら三國志並みの強度を、他の時代で、どうやりゃ手に入れられるんでしょうね? えっ無理? うん知ってる。そこを敢えて押します。


 そんなことを、次回に語ってみます。

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