第2話 新人トーナメント

――聖樹暦四六五〇年三月三日。イズラ聖樹国特級都市ティアの東地区にある国内最大の大闘技場。その受付にカインの姿があった。


「カイン様は予選第三ブロックとなります。向かって右側の通路の先に待機部屋がございますので、そちらで試合開始までお待ちください。試合形式はバトルロワイヤルとなります」


 カインを接客している受付嬢は淡々とカインの手続きを進めていた。カインが申し込む新人トーナメントは頭数を減らすため、予選はバトルロワイヤルで行われる。


「あぁ、わかった。要は、最後まで勝ち残りゃいいんだろ?」

「はい、その通りです。本選からは三十二名によるトーナメントとなります。上位十名までが入賞となり、賞金や商品が贈呈されますので、頑張ってくださいね」

「わかった。ありがとな」


 毎週一回開催される新人トーナメントは、連日新規登録される探索者が多いこともあって、参加人数もそれなりである。今回は比較的少なめだがそれでも総勢四百人ほどが参加する。これだけの参加者から本選に進めるとなれば、期待の新人として周囲から認識される。上位入賞となれば、上位パーティーからのスカウトだってあることだろう。


 参加証を受け取ったカインは受付嬢に言われた通り、闘技場内の待機部屋に向かう。道中、同じく参加希望と思われる若者たちが多く居たが、彼は誰に声をかけることもなく、一直線に待機部屋に向かう。


(こんなところで仲良しごっこをしてる連中じゃあ、程度は知れてる。ここは、緊張することなく落ち着いてるやつに目星をつけとくべきだな)


 カインの夢を叶えるためには、ただパーティーメンバーを集めてダンジョンに潜ればいいという訳ではない。それぞれが確固たる意志をもって、切磋琢磨しあって上を目指す仲間が必要なのだ。


 そんなことを考えているうちに、カインは指定された待機部屋へと着いた。


「お、ここだな。――なんだ、誰もいねぇじゃねえか」


 カインの思惑通りとはいかず、まだ人が集まっていないようだった。まだ受付も始まったばかりなのだ、もう暫くしたらぼちぼち集まってくるだろう。そう思って、カインは壁際に設置されている椅子に座った、その時だった。


「――ちっ!」


 突如襲った悪寒に反応し、カインは長剣とバックラーを一瞬で構えて出入口へ注意を払った。そこから入ってきたのは、金髪碧眼の美青年。紅いコートを身に纏ったその背中には、ハルバードと呼ばれる得物を背負っていた。


「ほう、反応したか。何、そう構えるな。挨拶みたいなものさ」


 青年は本当に何でもないと思っているかのような気やすさでカインへ話しかける。


「てめぇ、随分なご挨拶じゃないか。次はないぜ?」


 カインはそう言って溜息をつくと、構えを解いた。そのカインの素っ気なさに青年は肩をすくめて返す。


「あぁ、わかっているとも。ここに来るまで、大したことない奴らばっかりだったからね。そしたら、君がここへ入っていくのを見かけてね。ご挨拶しておこうと思ったのさ」

「あん? じゃあなんだ、お前は別のブロックなのか」


 カインとて、この青年と同様、他の奴らは大したことがない連中だと見切りをつけている。彼の言い分も自分が対象でなければ納得できるというものだ。


「あぁ、そうさ。僕は第四ブロック、お隣が待機部屋だね。それと、僕の名前はアナベルだ」

「カインだ。ほれ挨拶はすんだ、さっさと戻れよ。俺は寝る」

「よろしくね、カイン君。本選でまた会おう。じゃあね」


 お互い軽く自己紹介すると、本当に挨拶だけが目的だったようで、アナベルは自分の待機部屋へと引き返していった。


(できるな、あいつ。あぁいう手合いとはあまり遣り合いたくないもんだがな)


 カインはアナベルの背中を見送りつつ、そう心の中で愚痴た。カインの見立てでは、おそらく武術の腕前はカインの方が上だろう。だが、それは正々堂々と正面から勝負した場合の話だ。


(ハルバードみてぇな長物を使うってのに、軽装で身のこなしも軽いと来た。ありゃ正面から打ち合わず、間合いをコントロールして搦め手で仕掛けてくるタイプだな。もちろん、正面から打ち合えないって程、腕前がない訳でもねぇ。厄介なタイプだ)


 長剣とバックラーを武装とするカインにとっては、性格も含めて相性の悪いタイプである。幸いなのは、予選が別ブロックに分かれていたことか。仮に本選であたるとしても、対抗策を考える猶予がある。むろん、それは相手も同じだが。


「ま、これでやる気が出てきたってもんだ」


 カイン自身、仲間を集めるために参加したとは言え、どうせなら良い試合がしたい。叶うならば、実力が伯仲としている相手であれば尚良し。そう考えていただけに、アナベルとの出会いはカインにとっても望むところだったのだ。


 再び腰を落ち着けたカインは、今度こそ出番が来るまでひと眠りすることにしたのだった。

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