第2話 ボドゲで倒した勇者が仲間にしてほしそうにこちらを見てくる件について
人類の文化は実に興味深い。
いやぁ、人類滅ぼすとふんぞり返って魔王城の玉座に座っていたワシこと魔王じゃが、世界の半分を勇者と管理するようになって、その文化の神髄に触れることになり――言葉がなんじゃがたまげてしまった。
歌謡然り、料理然り、そして――遊戯しかりである。
特に
よい。
これは面白い。
世界の半分を質に入れてもやる価値がある。
「よいのうよいのう。このカルカソンヌというゲーム。毎回違う展開になることもさることながら、街ができていくのが見ていて小気味よい」
「だろう。俺もこのゲーム好きだぜ。ただ、カードの枚数とか覚えりゃ、終盤は理詰めで戦うこともできるから――頭いい奴とやると痛い目見るんだなこれが」
「なにそれ。そんなガチになってゲームとかする奴おるの。お爺ちゃん、ちょっとボケが入ってるから、緩くやりたいんじゃけど?」
「魔法使いとか鬼よ。あいつ知力だけはめちゃくちゃ高いから、えげつない都市づくりしてくる。何度俺が、村人を配置できなくて泣いたことか」
そんなえぐいことしてくるのか、あの魔法使いの娘っこ。
勇者が裏切った時にはテンパってテンパって、自爆魔法で魔王城を吹っ飛ばそうとしたのに、意外とインテリなんじゃのう。
まぁ、頭いい奴に限って、予想外の展開には対応できないとかよく聞く話じゃし、そういうものなのかも。頭がいいというのも考えモノじゃ。
などと言いながら。
「ほい、この都市もーらいじゃ」
「だぁ、爺!! せっかくこつこつ育ててた都市を横取りして!!」
「カードの引きがよかったんじゃから仕方なかろう!! ふふっ、これで更に勝ち点が20点じゃわ!! 圧勝じゃのう、圧勝!! このゲームの世界でも、ワシは世界の半分以上を手に入れてしまうわい!!」
「年甲斐もなくなにムキになってんだよ……」
「都市作る
だぁもう負けだ負けだと、その場にふて寝する勇者。
投了である。まだまだカードは残っているというのに、圧倒的な点数差にやる気をなくしてしまったと見える。
この勇者、流石にワシに寝返っただけあってそういう所がある。
諦めがいいというか。
投げやりというか。
そういう所、もうちょっとちゃんとしないと、この先やっていけるか、お爺ちゃん心配。
まぁ、寝返らせたのはワシだけど。
投げてしまっては仕方がない。
そっぽを向いてしまった勇者の背中を見ながら、ワシは出来上がった都市を――名残惜しいが片付けた。
「もう一戦やるか?」
「やだ!! もう、俺、爺さんとは
「そんなツレないこと言うでない勇者よ。ワシのボケ防止じゃと思って――ほれ、ボケるとワシ、この世界を暗黒に染めてやろうクハハハ――とか、言い出しちゃうかもしれんよ?」
「いやもう、一周回ってボケてるから、仲良くしてんじゃないの?」
そういうこと言うかね。
まったくもう、せっかく魔王が人間側に歩み寄って、いい感じに世界を平和にしてやったというのに。
そういうこと言うかね。
ワシじゃなかったら、カムチャッカインフェルノで激おこプンプン丸な所じゃぞ。
まったく、ユーモアあふれて人間の文化に理解のあるワシだからだぞ。そこんところを忘れないでもらいたいもんである。
まぁ、勇者はワシの孫くらい若い。そんな子供を相手に――ムキになって大人の知力戦をしかけるのも大人げなかったかのう。
ワシ、ちょっぴり反省。
「ほれ、じゃぁ、あれじゃ、お主の好きなあのゲームをやろう」
「あのゲーム?」
「ダンジョンオブマンダムじゃ!!」
いいねぇ、と、目を輝かせて勇者が振り返る。
その
◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョンオブマンダム。
またの名を、ダンジョンチキンレースゲームという。
簡単にルールを説明しないと分からんから説明しよう。
ワシは読者にも優しい魔王じゃからのう。ふふん。
まず初めに、プレイヤーは酒場に集まった万全の装備をした冒険者じゃ。
彼らはダンジョンの何階層まで潜るかを相談しておるという設定じゃ。
番が回ってくるごとにプレイヤーは、三つの選択肢を選ぶことができる。一つは、カウントした階層までダンジョンを潜る。一つは、潜る階層のカウントを増やしてパスする。最後の一つは、装備を捨てて潜る階層のカウントを増やさない。
この駆け引きが実に絶妙じゃ。
当然、ダンジョンにはモンスターが居る。より深くダンジョンを潜るほど、モンスターと戦う可能性は高く、また、強いモンスターと遭遇する可能性も高くなってくる。
この辺りを見極めて、何階層まで潜るのか、どの装備を捨てるのか――。
そういう駆け引きを楽しむゲームなのである。
とまぁ、簡単に説明するとこんな感じじゃ。
本来はもそっと複雑じゃが――。
「権利関係もあるからちょっとぼやかしておかんと大変なんじゃ!!」
「いや、単に現物持ってないから説明しきれないだけじゃねえ?」
「そこまでじゃ勇者よ!! それ以上無駄口を開けば、この世界が滅ぶことになってしまうぞ!! それでも構わんのか!!」
「俺は、いっこうに、かまわん!! あ、ドラゴンスレイヤー捨てるわ」
「おわぁー!? マジで!? それ捨てちゃうの!? え、なに、ドラゴン仕込んだ!?」
「さぁて、どうだろうねぇ……」
勇者はもったいぶった手つきで、ドラゴンスレイヤー(ゲーム中最強&ドラゴンを無条件で倒せるアイテム)を墓地へと捨てた。うぅむ、ブラフっぽいが、凄い自信じゃ。
流石はあきらかにレベルが足りてないのに、装備と度胸とはったりで魔王城まで辿り着いた男である。こと、こういう心理戦においては異様に強い。
というか賭け事全般異様に強い。
「お主、実は勇者じゃなくて遊び人ではないのか?」
「遊び人だったらスロットで全財産溶かさないってーの!!」
「
そんなだとお嫁さん来てくれんぞ。
ただでさえお主、人類を裏切って魔王と結託した元勇者とか、そういう肩書を背負ってるんだから。ワシがこう、穏便に事を済ませたから、人類側からとやかく言われることはなくなったけど、ほんとだったら磔にされて石投げられててもおかしくないのよ。
まったく。本当に、呆れた奴じゃ。
しかし――だからこそ面白い。
「痺れるような
「ふふっ、お主、勝負師の顔になってきたのう。魔王城に乗り込んできた時と同じ目――いや、顎先じゃ!!」
尖がっておった。
勇者の顎が伝説の剣かなと思えるくらいに尖っておった。
もうなんか、その鋭さでモンスターを殺せるんじゃないか――そんなくらいに、勇者の顎が尖っておった。
カリバーン要らずである。
実際、奴はその顎で、四天王を倒したらしい。いやぁー、一番最初の力自慢の奴じゃったから、かなりの貫通力があることは間違いなさそうじゃ。
ワシも喰らわんように気をつけんといかんのう。
「ククククッ……」
「フフフフッ……」
そんなこんなで、ワシのターンが回ってきた。
このターンでワシがやるのは一つ。
「では、ワシは、このプレートメイル(ドラゴンスレイヤーの次に強い装備)を捨てよう!!」
「なにぃっ!!」
「倍プッシュじゃ!!」
この勝負、たとえ勇者のご機嫌取りにはじめたものといえ、手加減する気はなかった。
それはそれ、これはこれ。
勝負事は真剣だから――面白い。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁー」
「いやぁー」
「まぁーさかスッポンポンでダンジョン突入するとか、ようやるわ魔王」
「ほんでもって、それで無事にダンジョンから生還するんだから、凄いよね、ワシ」
勝利。
完全勝利。
圧倒的勝利である。
ワシは無事にダンジョンチキンレースを勝ち抜いて生還した。
勝因は一つ。
「すっぽんぽんにすることにこだわり過ぎたのう」
「ダンジョンめっちゃ浅かったしな」
「いや、悪乗りしてしもうた」
「もう途中から、じゃぁこれもいらないって、脱がし合戦入ってたよね?」
「なんかもう、どれだけ脱げるか競ってる感半端なかったもののう」
「まったく」
あっはっは、と笑う勇者。
負けたというのに晴れやかな顔をする青年は、見ていて少し胸がすいた。
うむうむ、そうでなくては。若者に辛い顔は似合わない。そのように、笑って明日を見つめてこそだとワシは思う。まぁ、世界を滅ぼすとか、過去に物騒なことを言い出した、ワシが言うのはいささかどうなのじゃと思う所はあるけれど。
と、その時。
こんこん、と、ワシの私室の扉をたたく音がした。
「魔王様ぁ、よろしいですかぁ」
「なんじゃぁ、悪魔神官?」
「勇者さんに合わせろって、城の外にガラの悪い奴が五人ほど来てるんですけど。あきらかにこう、カタギじゃない感じの風貌の人が」
悪魔神官の震える声に、ワシは事態の深刻さを確信した。
同時に――すがすがしく笑う勇者をワシはじっと見つめた。
「……やれやれ!! 人生は途中で降りれないから困るぜ!!」
「お主!! このたわけ!!」
【ゆうしゃが なかまにしてほしそうに こちらをみている】
とりあえず手持ちの金を貸した。
孫にやるお小遣いじゃったのに。
ほんに、しょうのない奴じゃ。
まぁ、友達じゃからのう、しょうがないのう。
とほほ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます