第2話 世界一の賢者、現る (一話完結ものです)

ある日、王様は世界一の賢者を連れてくるようにと、大臣に命じた。

そこで、大臣は、頭の良さそうな人を探すために、一般人の格好をして、街にくり出した。高等学校、大学、それに会社などで聞き込みをした。質問は決まってこうだった。

「このあたりで、賢者は誰ですか?」

と。そして、それぞれの学校や会社で賢者と呼ばれている人を5人選び抜いて、大臣と同じく一般人の格好をした王様の前に並べた。王様は、自ら目隠しをして、予断を排除して、問うた。


「えー、5名の皆さん、ちょっとお聞きしたいのですが、ミュラー教授ってご存知ですか?」



高校の賢者は、答えた。「知ってます!」(名前を聞いたことはある)


大学の賢者は、答えた。「見たことはあるね」(講義を受けたことがある)


大学院の賢者は、答えた。「いえ、知らないです」(著書を全部読破してない)


社会人の賢者は、答えた。「いえ、ぜんぜん知りませんよー」(社交辞令)


大学の教授の賢者は、答えた。「ipse se nihil scire id unum sciat」(本気)


王様は、高校の賢者を称え、国政上の顧問とした。また、大学の教授の賢者の回答に腹を立てた王様は、大学の教授を地下牢につないだ。そして、ちょうどその頃、ミュラー教授が行方不明となったという知らせが入った。さっそく、顧問の意見を参考に、ミュラー教授を探すこととした。


・・・・・・「知っている」ということ。これはいったい何なんでしょうね。

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