4
それは、この街の女全てに宿る、残酷な魔女の
意地悪な
人拐いの老婆。
毒を盛る王女。
瞳と同じ色の宝石が眼窩に嵌め込まれたような美しくも無機質な光が、ただ一人、怯えた少女のままのシンデレラをじっと見つめている。グレーテルは卓に伏せたまま、白雪姫は背後の刈子の手を握ったまま、ラプンツェルは紅茶のカップを手に持ったまま、深い闇の中で石像のように微動だにしない。
カタカタと、時々小人たちが震える音。
シンデレラはただ、ハリネズミと同じ馬車に乗せられてしまった哀れな姫のように、恐怖に身を強張らせていた。
「どうしたの? シンデレラ」
彼女の背後で、シローの声がする。
不気味なほど優しい声だった。
「何か昔、やらかした覚えでもあるのかな?」
シンデレラはツバを飲む。
深い呼吸が、何度も、何度も。
「ごめんなさい…………」
震える喉から、なんとか言葉を絞り出した。
「全部、私が悪かったんです……」
クスクスと、シローは笑う。
笑う。
「何を謝るのシンデレラ? せっかく高い手をあがったじゃない。それもあの、賢い賢いグレーテルから」
沈黙。
沈黙。
「……何よ」グレーテルの目がようやくシンデレラから離れ、シローを見た。もういつも通りに愛らしい、みんなの妹グレーテルの顔である。彼女の拗ねた顔が暖かい空気を呼び戻し、小人たちもまたワイワイと何事もなかったかのように山を作り始めた。白雪姫はケーキを刈子と分け合い、ラプンツェルは澄ました顔で小人たちと一緒に鼻歌を歌っている。
「だって、君のお兄ちゃんたちとはお話にならないんだもの」シローは未だ顔面蒼白なままシンデレラの頭に肘をかけ、わざとらしくあくびをした。「つまんないから意地悪なことも言いたくなる」
「シロくんが嘘つきだからでしょう?」グレーテルも卓に肘を付き、小さなあごを両手のひらに載せる。「さっきだって、安牌なら沢山あったじゃない。会話が進まないのはそっちに会話する気がないから。みんなわかってるわよ」
「時にはバカになるのも大事なのさ。女みたいにね」
ヘンゼルとグレーテルの背後に控えていたガラシの額に、青筋が
「いいのよガラシ兄さん。シロくんはいつもこうだから」気にする様子もなくグレーテルは並べられた牌に視線を戻して、不要牌を切る。
「ポン!」白雪姫がすぐに声をかけた。「女みたいにバカってどういうこと? 私はおバカだけど、グレーテルは賢いわよね?」笑顔でキョロキョロと答えを求めてる。
「そういうことを純粋な気持ちで聞けるのがあなたの素敵なところです」そう言って刈子は白雪姫の首筋を撫でた。
「やーん! くすぐったいわぁ!」喜んでいる彼女はすでに、自分がした質問を忘れたようだ。
「……僕だって真面目に話す気はあるんだよ。君らのお兄ちゃんが僕と喋ってくれるんならね」シローは片方の眉だけ吊り上げ、ヘンゼルを見つめる。「ああ、かわいそうなヘンゼル。僕は覚えてるよ。昔は普通に歩いて喋ってたのに……。ねえ、いつの間に死んじゃったの? どうして死んじゃったの?」
「死んでないって」
「どう見ても死んでるよ」
「死んでない」
「死んでるし、それでも僕は、そこの"R"に話しかけている」シローは言う。「君にじゃないんだよグレーテル。これは男同士の話だ。女のネズミはすっ込んでな」
「大丈夫よガラシ兄ちゃん、大丈夫」思わず懐から<道具>を抜きかけたガラシの手をグレーテルが優しく掴む。「まだ私……諦めてないからね」5巡目、そう言って牌を切った。
「ロン!」
「え?」
南3局0本場
グレーテル→白雪姫(5200)
「ちょっとぉ! 早いってもう!!」
「アハハハハ、いいぞぉ白雪姫」シローが可笑しそうに拍手する。「あれ、これで点数状況どうなったのガラシちゃん?」
「……ラプンツェル様が61200点、シンデレラ様が18700点、白雪姫が17900点……グレーテルが3200点ですね」
「やったねシンデレラ」シンデレラの両肩に手を置く。「これで
*
もちろん、そんなことはありませんでした。
*
「ロン」
南4局0本場
シンデレラ→グレーテル(12000)
「あ……」
<最終結果>
ラプンツェル 61200
白雪姫 16900
グレーテル 16200
シンデレラ 6700
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