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その『鳥かごの城』と呼ばれるナイトクラブは、かぼちゃ組系列クラブが大抵そうであるように、
ナイトクラブ、それはこの街で唯一男女の交流が許された夢の空間。
中でもごく一部の特別な男が入場できる、舞台を見下ろせる位置にある最高級ボックスで、奇妙なほど丸い目をした髪も肌も黒い男が、自らの
後ろ手に腕を組んで報告をする夜蝉の前には、見目麗しい姫の顔が3つ、高級ソファに横一列に並んでいる。
向かって左にいるのは、白いドレスを着た、髪を青く染めた伏し目がちの美女、エレナ。
右にいるのはシャーロット。黄色いドレスと緑のボブヘアで、新人だが明るく人懐っこいという。
そして真ん中にいるのが、豊かなブロンドヘアで三つ編みを作った、誰もが惚れ惚れするほど美しい男、シロー。
かぼちゃ組の証であるオレンジのシャツと黒スーツを身にまといながら、それでもなお、全くもって『そういうコスプレをした少女』にしか見えないほど華奢で小柄で愛らしい姫のような顔をした彼が、かぼちゃ組の当代組長である。
「ふーん」
シローは両側に侍らせた姫の肩に腕を回したまま、鼻歌を唄うように軽く息を漏らした。
「つまり僕ら、相思相愛だったわけだ。せっかく届いた菓子折り付きの招待状、誘われてるのに奥手になってちゃおとぎ話は始まらない。だよね? セミ」
「そういうことに、なりますか」夜蝉は冷たい声で答える。
「なりますかって?」クスクスとシローは楽しげに喉を鳴らしたが、その青い瞳には常日頃そうであるように、おとぎ話の王子に相応しい残酷な光以外は映らない。「それ以外には、ありえない。そうでしょ?」
「無論です」
「結構結構」
コホン、と、二人のヤクザの間に小さな咳払いが割り込む。シローの右に座るシャーロット姫が、行儀よく首を傾げてみせた。「なになに、シロちん、野いちご組とケンカするの?」
「あはは、ケンカなんてそんなそんな。軽く野いちごのロリコンどものケツを蹴飛ばすだけだよ。ほんとほんと」
透き通った声で笑いながら、シローは片手で、シャーロットの腰の下に手を添えた。
姫の体がピクッと反応する。
夜蝉の背後に控えていた組員たちの空気が一気にヒリついた。
本来なら
だが、シャーロットは抵抗しない。
白く小さな手が、まるで羊の毛を撫でるように尻から太ももへ、そしてお腹へと這い回っても、黙って受け入れている。
その世にも稀な美貌で誰よりも女の寵愛を受け、組長にまでのし上がったシローでなければ、決して許されぬ暴挙だろう。
背後の組員たちの顔が引きつっているのとは裏腹に、夜蝉はその石像のような顔を砂一粒たりとも変えず、「手筈は、いかに?」と簡潔に問うた。
「見ての通り、僕はまだ動けない」組長シローはごろりと、今度は左の姫エレナの膝に頭を載せた。「お前が先に事務所に戻って仕切ってこい。9時には撃ち込めるようにしとけよ」
「御意」夜蝉は懐からサングラスを取り出したが、顔に掛ける前に一度、手を止めた。「恐れながら、親分」もう一度組長の方を見つめる。「一つだけ、可能性は低いですが、気掛かりなことが」
「なに?」
「現場に残っていた<そら豆>の火種の痕跡のことです」
「それくらいは裏で出回ってるだろうね」
「そうであれば、問題ありません。そうでない場合、少し厄介です」
一拍の沈黙。
「……<そら豆>本人が噛んでるかもって?」猫のように素早く、シローは体を起こした。「なるほどね、<ハンスたち>が絡んでると怖いんだ。モテない男はこれだから……」喋りながらポケットに手を入れようとして、ふと思いついたように、左に座るエレナの胸の間に指先を差し込んだ。
「きゃ!? ちょ……あっ」
また、組員たちの顔が恐怖に引きつった。
「うん、あったあった」しばらくまさぐっていたシローはそこから名刺を取り出し、道楽者がカードを繰るように、夜蝉にそれを投げてよこした。「現場の誰かに渡してやりな」
受け取った夜蝉はその名刺を見る。顔写真の右上に、三枚の葉と蛇の意匠が見て取れた。
「……感謝します、親分」夜蝉は組長に丁寧に頭を下げ、次に、その隣で顔を赤くしている姫に目を向けた。「ありがとうございます、エレナ姫」
「いや……別に」エレナは俯く。
「佐久間のことは、残念でした」
「……うん」
「さくま? 誰?」シローが聞く。
「事務所に吊るされていた男です」夜蝉が答えた。「自分が野いちご組に忍ばせていたブヨでした」
「へー。なに、恋人だったの?」
「恋人じゃなかったよ……まだ」彼女は少しさみしげにため息をついた。
「あらそう。そりゃエレナちゃんのためにもしっかり仇撃たないとね」懐からタバコを取り出したシローは、そのライターの火のように青い瞳で、夜蝉を見つめる。「わかるね、蝉。僕の望みは戦争、ひいては野いちご組のシャツをかぼちゃのオレンジに染めることだ。お前ならできるね? "老いたる蛹"、静かなる夜蝉」
「可能な手の限りを尽くします……親分」
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