第20話-11

「うーん、なんででしょうか」


 予想の斜め上。

 そんな回答を児島くんは返した。


 自分でも分からない、そんな感じで、こちらに視線を向けてきた。

 むしろこっちが教えて欲しい――そんな視線を、まったく容赦なく、躊躇なく、遠慮なく、彼は俺たちに向けてきたのだった。


 絶句。

 七言でもなく、五言でもない。


 絶句。

 俺たちは彼の返事に言葉を失った。


「……えっ、あっ、え?」


「自分でも、なにがきっかけだったのか、正直分からないんです」


「けど、え? アイドルですよね?」


「まぁ、一応、アイドルですね」


「オーディション受けましたよね?」


「受けましたね」


「なのに分からないんですか?」


「分からないんですよ」


 生まれついてのアイドルなぞ、この世界には存在しない。そう、アイドルになるためには、オーディションを受けなくてはいけない。

 厳しい審査を経なければならない。


 だから、なるためのきっかけが存在しない訳がないのだ。


 なのに――。

 分からないだと――。

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