第十九話 Q.超能力ですか? A.ハンドパワーです

第19話-1

 ――朝。


 私の仕事は一杯の珈琲と始まる。

 ベイスクエアにあるス〇ーバックスコーヒー。そこで買ってきた、カフェインレスコーヒー・キャラメル増しを啜りながら、パソコンを立ち上げる。


 経済大学を卒業した私は、ここの店の店員兼経理として勤務している。

 個人経営の良い所というべきか、それとも緩いところというべきか。

 その日のうちに売り上げの帳簿はしっかりと付けておくべきところだ。しかし――「どうせ朝はお客さん来ないから」――と、店長は朝一で付けるように融通してくれた。


 バツイチ子持ち。

 その肩書がなくても、くたびれた感じがひしひしと伝わってくる彼は、この店の二代目店主だ。


 商店街の眼鏡屋。

 全国展開する眼鏡量販店にシェアを奪われ、先代の死により、彼が東京から戻ってきて店を継いだ時には、経営は赤字状態だったという。しかしながら、日本経済の中心で働いていた彼である。奮起した店長により店は一年で持ち直した。


 より地域に密着し、そして、店長自らが鯖江に足を運んで選んだ一点もの眼鏡を取り扱うようになり、県内でもコアな客がつくようになった。県外からわざわざ足を運ぶ人もいる。知る人ぞ知る眼鏡専門店。


 そんな店に勤めているのを――私は実は誇りに思っていた。

 つい最近までは。


「店員さん!! 開けてくれ!!」


「開店時間です!! 店員さん!! お客さんが待ってますよ!!」


 アホカップルが入り浸るようになるまでは。


「朝から騒がしいよアホップル!! 静かにしろ!!」

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