第15話 Q.魔法少女ですか? A.プリキュアです

 もはや魔法少女しかない。

 魔法少女になるしかない。


 俺は、今日に至るまでの、数々の属性検証の結論として、そんな一つの答えを導きだしていた。


 魔法少女。

 そう、魔法少女である。


 古来、マハリクマハリカの時代から、魔法少女というのは男子の心をくすぐって仕方ない存在なのである。魔法少女ものは、女の子向けのアニメなのだけれど、だいたいの男の子がこっそりと見ているものなのである。


 かくいう俺も、仮面ライダーより、プリキュアの方を楽しみにしていた男である。

 プリキュアの方が見ていて胸が躍った方なのである。


 そして、往々にしてプリキュアが初恋の女の子なのである。


「……タカちゃん、プリキュアは魔法少女じゃないよ!!」


「いや、魔法少女だろう!!」


「ちがうよ!! プリキュアはプリキュアだよ、タカちゃん!!」


「ちがう!! プリキュアは魔法少女であり――俺たちの理想アイドルなんだ!!」


「アニオタみたいなこと言わないでタカちゃん!! 普通にキモいよ!!」


「割とこんなことやっている時点でもうすでに手遅れだよみゆき!!」


 あと、キモいとか言われて地味にショックです。


 みゆきだけはどんな俺でも、受け入れてくれるだろう。そう思っていただけに、キモいと言われてちょっとショックです。


 ダメだ、ソウルジェムが穢れて、魔女になってしまうかもしれない。

 ちなみに、古くは魔女というのは広義に魔法を使う者を指し、男でも魔女と呼ばれたのだという。なので、俺もまた悪堕ちして、魔女になってワルプルギスの夜になるという展開も、あり得ないこともないかもしれない。


 なので、もうちょっと、発言をオブラートに包んでいただきたいのだ。

 でないと、僕と契約して魔女になってよと、地球外生命体がダイレクトマーケティングに来てしまう。


「どうしたのタカちゃん!? 膝を折ってどうしたのタカちゃん!!」


「うぅっ、みゆきにキモいって、言われたのがちょっとショックで。俺、俺って、そんなに気持ち悪いかな」


「……ぶっちゃけ、属性がどうとか言ってる時点で、ちょっと」


「……みゆき?」


「けど、それでも私はタカちゃん、ラブ!! どんなことがあっても、タカちゃんが大好きだよ!!」


「……みゆき!!」


「……タカちゃん!!」


「みゆき!!」


「タカちゃん!!」


「おめーは良い所の御曹司ボンボンか何かなのかよ。だから、なんでわざわざ、ウチの店の前でそういう茶番を繰り広げてんだよ。迷惑だって言ってるのが分かんねーかな」


 眼鏡屋の店員さんがけだるげな感じで俺たちに言った。

 この店員さん、付き合えば付き合うほど、性格の悪さがにじみ出るタイプの人だ。初見の人には人当たりがいいが、仲良くなるにつれて地が出てきて人が離れていくタイプだ。


 恐ろしい。人間って怖い。そして、商売のためなら、そういう性格を被れる、現代人の精神構造が怖い。

 俺たちは、そんな関係にはならないように、気をつけたいものである。


「ウチは普通のサラリーマン家庭だ」


「むしろ、私の家の方がお金持ちです。駅前に高級マンション三つと、駐車場五つ」


「……なるほど、女の方が箱入り娘ぱっぱらぱーだったか」


 なので、うちの親は――。


『ぜったいに結婚しろよバカップルども!! じわじわとなぶり結婚にしてくれる!!』


 とか、よく言っているのだが、正直、そういう問題ではない。

 大切なのはやはり、家とか金とかではなく、愛情なのだ。

 愛情が確認できない限り、俺とみゆきは結婚するべきではない。それは、俺とみゆきの双方が納得した、譲ることのできない結婚の条件だった。


「むしろ、結婚してから愛情を探すのではダメなのか?」


「偽装結婚という奴ですか」


「逃げるは恥だがなんとやらですか」


「よく知ってるな。そこまで知ってて、なんでその決断をしないのか」


「……偽装結婚するには愛が深すぎるような気がして」


「……偽装では済まなくなってしまう気がして」


「店長ォっ!! バツイチ子持ち、できちゃった婚でいろいろと社会的な負債を背負っちまった店長ぉッ!! この幸せ野郎どもに、ひとつ含蓄のある説教でもしてやって!!」


 店員さんが叫んだ。


 困ったことがあればすぐ店長頼み。

 まったく、自分で問題を解決することができないのだろうか。一応、ここの正社員として雇われているということは、そういう業務上の問題解決能力も期待されているはずだ。


 労働力を提供するだけならアルバイトでもできる。

 正社員は、そこにプラスアルファ、問題解決能力も求められていというのに、それを理解していないらしい。


 やれやれ、これは彼女が出世するのは、まだ遠い話のようだな。


「んで、今日はいったい何が知りたいんだ。こっちも一応用意しといたぜ」


「おぉ、店員さん!!」


「私たちのために準備してくれていたんですか!!」


「グーグルエコーを買っておいたわ。私じゃなくて、そっちに聞きな」


 ほらまたなんでも他人任せだ。

 そんなんだからダメなんだよ。


 しかも人じゃなくてロボットとか。


 終わってるな、この眼鏡屋。ついに、眼鏡屋として終わったな。

 人との触れ合いをそんな風に否定して、商店街のお店がやっていけると思っているのだろうか。


 人と人とが触れ合うことにこの手の店は価値があるのではないのか。それを否定して、ロボットで対応しようなんて。それじゃネット通販会社で事足りるではないか。


 人間が真心を持ってご接客する。それが大事だと、俺は思う。

 そういう心を――ぜひ店員さんにも大事にしていただきたいものだ。


 まぁ、せっかく用意してもらったから使うのだけれど。


「タカちゃん、これあれだね!! 声で問いかけると、声で答えてくれる奴だね!!」


「そうだなみゆき!!」


「近未来だね!!」


「近未来だな!!」


「……いうほどのことか?」


「それじゃさっそく聞いてみようか、みゆき!!」


「そうだね、タカちゃん!!」


「……みゆき!!」


「……タカちゃん!!」


「みゆき!!」


「タカちゃん!!」


「OK!! グーグル!! このアホどもの関係は!!」


『はい、バカップルです』


 失礼なことをグーグル先生に言われてしまった。


 バカップルとは失礼な。何を聞いてそんな判断をしてしまったのか。利用している人工知能のアルゴリズムに、いささか俺は違和感を感じた。


 まぁ、人類の叡智といっても、限界があるからな。

 正しく認識できないこともあるさ。


 それはさておき。


「いつまでも、こんなバカなやり取りをしている訳にはいかない」


「そうだねタカちゃん」


「バカの自覚はあったのかよ。カップルの自覚も持ってくれよ」


「問おう――貴方が魔法少女はどうしたらなれますか!!」


「問い方が違うよ!?」


『もう一度言ってください』


「ヘイ、シリ!! 魔法少女になるにはどうしたらいいの!!」


「違う人工知能ソフトだよ!!」


『もう一度言ってください』


「アレクサ!! 幼馴染を魔法少女にしたいんだが、どうしたらいい!?」


「どうにもできねえよ!! 何をとち狂ったこと言ってんだお前ら!! それと、いい加減ちゃんと使ってやれ!! わざとやってんのか!!」


『もしかして、魔法少女まどかマギカですか?』


「ほんで、検索結果でそれっぽいの出してんじゃねえよ!!」


 うがぁ、と、叫んで、眼鏡屋さんがグーグルエコーを放り投げた。


 あぁあぁ、結構高い装置なのに。

 そして、魔法少女になる方法について、まだわかっていないのに。


 いったいぜんたいどうしてくれるんだろう。


「ちょっと、魔法少女になる方法がまだ聞けてないんですけど!!」


「ですけど!! ぷんぷん!!」


「どうにもならねえよ!! そんなこと聞くくらいなら、まだ、恋人になる方法聞いた方が可能性あるよ!!」


 魔法少女にもなれないのに、恋人になんてなれるわけないだろう。

 ははん、さては店員さん――。


「「OK!! グーグル!! 店員さんの男性遍歴!!」」


『はい0件です』


「ウガァーーーーーッ!! いい加減にしろ、このバカップルども!!」

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