第14話 Q.ギャル系ですか? A.白ギャルと黒ギャルがあるっしょ

 ギャル系という属性がある。

 というかジャンルがある。


 アクセサリーをじゃらじゃらつけていたり、ちょっと小粋なピアスをしてたり、制服の着こなし方・着崩し方が素敵だったり、あと、なんか土下座で頼んだらヤらせてくれそうだったり。とにかく、そういうのを司る、今最もパワーのある属性だ。


 いわゆるクラスのヒエラルキーのトップに君臨していることが多い。

 そして、昼休みにはグループで集まり、女子トークに華を咲かせる。

 たまにイケてない男をからかって遊んだりする性質タチの悪い集団のようにも思えるが――構われる方は結構それはそれでと思っていたりする。

 実は百利あって一害なしの、素晴らしい存在なのである。


 という訳で、このギャル系を、今回はみゆきに目指して貰おうと思った。


 そう思ったのだが――。


「タカちゃん。私も一応、今どきのギャルのつもりなんだけれど」


「……まぁ、年齢的な条件だけを見れば、確かにみゆきはギャルだ」


「年齢的もなにもギャルなんですけど!! ぷんすこなんですけど!!」


 頼んだ瞬間、みゆきに怒られた。

 みゆき、自分ではギャルのつもりだったんだな。


 普通に、優等生の女の子っていうイメージしか、俺にはなかった。というか、ギャルってもっとこう、遊んでそうなイメージがあるから、まったく想像できなかった。


 こう、優等生のおさげの女の子と茶髪ロングのギャルという軸があるとして、みゆきは優等生のおさげの女の子よりだと思っていた。


 だって、俺の言うことをよく聞いてくれるし。

 ギャル語だって使わないし。

 いつも門限を守っているし。

 男友達もそんなにいないし。

 女友達と派手に遊んだりしないし。

 そもそもカラオケ下手だし。

 アクセサリーとか付けないし。

 パンツは猫ちゃんのプリントだし。


 なのにギャルだなんて、そんなこと思える訳ないじゃないか。

 優等生タイプかなって思っちゃうじゃないか。


 いや、優等生よりはちょっとギャルよりかな、むしろ、いい感じにバランスの取れた、モブタイプの女の子かなと、思っちゃうじゃないか。


「「「俺たちもみゆきちゃんは優等生タイプだと思ってたよ!!」」」


「クラスメイトたち!!」


 はじめてクラスメイトたちと意見が一致した。

 みゆきはギャルではないと、ここに来てはじめて彼らと意見が一致した。


 これにはみゆきも驚いた。

 そして、俺も驚いた。


 いつも表層的な部分をなぞって、頓珍漢なことばかり言うクラスメイトたちだけれども、今回ばかりは完全に俺と同じく、物事の本質を突いていた。


 ありがとうクラスメイトたち。

 これで俺は、自信を持ってみゆきに言うことができる。


「みゆき!! あえて言おう!! お前はギャルではない!!」


「えぇっ!?」


「どちらかというと、優等生よりの女の子だ!! いや、優等生でもギャルでもない、その中間――ニュートラルにある女の子だ!!」


「ニュートラル!?」


「つまり――限りなくごく普通の女の子ということだ!!」


 ガーン、ガーン、ガーンと、みゆきの後ろにショックな響きが木霊しているのが見えた。


 見えた気がした。


 どうやらみゆき、本気で自分のことをギャルだと思っていたらしい。


 しかし、自分で思っているのと、他人が感じているのとでは違う。結局のところ、世の中というのは、主観ではなく客観がモノをいうのだ。幾ら自分で自分のことを、ギャルだと思っていたところで、周りがギャルだと思わなければ、ギャルじゃないのだ。


 そう、ギャルとは人に見られてこそ、はじめてギャルたりえる。

 ギャルだと人に思わせられないギャルなど、ギャルではないのだ。


 ギャル力が足りない。


「そ、そんなこと言ってもー、ウチ、わかんないっていうかー、タカちゃん、なにいってるのっていうかー、まじ、うけるっていうかー」


「そうやって無理にギャル語を使おうとするあたりがギャルじゃない!!」


「ふにゃぁっ!!」


「そして、かわいいリアクションするあたりもギャルじゃない!!」


「みにゃぁっ!!」


「「「そうだそうだ!! ギャルの可愛さとそれは違う可愛さだ!!」」」


「クラスメイトもこう言っている――さぁ、観念するんだ、みゆき!!」


「……ごめんなさい、私は、ギャルじゃありませんでした」


 よろしい。

 まずは自分の実力を素直に認めるところから、全てははじまるのだ。


 なに、大丈夫だ。

 今がギャルでなくっても、将来的にギャルになればいいんだから。

 人間は可能性の生き物である。なりたいものに向かって、ひたむきに努力を続けていれば、いずれきっと、そこにたどり着くことができるのだ。


 どんなに時間がかかってもいい。諦めず、前に向かって踏み出す勇気。

 それこそが、人間を成長させる。

 そして女の子をギャルにするのだ。


「という訳で、ギャル属性を獲得するため、みゆきに師匠を用意した」


「ギャルの師匠!?」


「そうだ!! 先生、どうぞお入りください!!」


 そう言って、俺はパンパンと、二回手を叩いた。

 教室の入り口の陰に隠れていたギャルの師匠が、満を持して俺たちの教室にその姿を現す。


 ウェーブのかかった黒い長髪。

 ばっちり整えたまつ毛に淡いピンク色のリップクリームが塗られた唇。

 見えそうで見えない絶妙な長さに整えられたスカート。

 そして、鎖骨が綺麗に見えるように、計算してはだけた襟元。


 そう彼女こそは――。


「公募に向けて現在執筆中の作品――かまってよ田村くんのヒロイン!! 鈴鹿姫子先生だ!!」


「……誰!?」


「ていうかー、公募作品より先に他の作品に顔出しするとか、マジあり得ないっしょ!? どういうことどういうことどういうこと!?」


「「「いやいや、こっちがどういういことだよ!!」」」


 現在絶賛作者が誰にも見せずに書き溜め中の、かまってよ田村くんの主人公鈴鹿姫子さんだった。


 滋賀県甲賀市土山高校から、わざわざギャルレクチャーのためにやって来てくれた、特別ゲストだった。多くのギャルの例にもれず、頼んだら力を貸してくれる、やぶさかではない優しいギャルであった。


 ちなみに、かまってよ田村くんは今のところどこに出すかまだ決まっていないのだった。なのでもしかすると、この顔出しが最初で最後、彼女の出番かもしれなかった。


 しかし、鈴鹿姫子はきてくれた。

 なぜならば、彼女はギャルだから。

 優しいギャルだから。


 基本ギャルというのは優しい生き物なのである。

 繰り返す。基本ギャルというのは優しい生き物なのである。


「ていうか、誰も知らない作品からクロスオーバーするとか、冒険というより無謀って奴っしょ。この作者、脳みそ沸いてるっしょ」


「仕方ないだろう、作者が自分の内に眠っていたギャル属性に目覚めたのは――君を書いてからなんだから!!」


「なにそれ、マジウケる!! ウチが作者のはじめてのギャルってこと!! アッハ、これまでさんざん小説書いてるのに、ギャルキャラ出さなかったとか――どんだけ昭和の小説書いてるっしょ!! そりゃウケなくて当たり前っていうか!!」


「鈴鹿さん!! ギャルレクチャーです!! 目的忘れていませんか!!」


「そうだったし。作者が童貞臭いから、ちょっと、童貞弄りしちゃったし。まぁ、これもギャルの宿命っていうか?」


 うぅむ、すさまじいギャル力だ。


 まさか他作品に出てきて、ここまではっちゃけることができるなんて。

 しかも、童貞弄りはギャルの鉄板ネタとはいえ、それを作品のキャラクターではなく、まさかの作者(31)に向けることができるなんて。


 これはわざわざ、滋賀県甲賀市土山から呼んだ甲斐があるというもの。

 この先生についていけば――ギャルになれる!!


「とりま、ギャルレクチャーをはじめるっしょ。誰だし、その、ギャルになりたいって娘は。ウチがばっちり、イケてるギャルにしてあげるっしょ」


「こちらの娘です鈴鹿先生!!」


「私です鈴鹿先生!!」


 俺は自信満々の鈴鹿姫子に、自慢の幼馴染を突き出した。

 みゆきが息巻いて鼻を鳴らす。


 へぇ、と、そんなみゆきを見て、鈴鹿さんが値踏みするような顔をする。


 ぐるり、俺と、みゆきを三百六十度、眺めて――鈴鹿さんは言った。


「ていうか!! 二人はどういう関係っしょ!! 肩触れ合って、なんか仲いい感じっしょ!!」


「そこ、触れる必要あります!?」


 鈴鹿先生はなぜか、俺たちの関係性について食いついてきた。

 まさかの、俺たちの関係について食いついてきて。


 目が割とマジだった。

 それまでのギャルの余裕が霧散した、マジの目をしていた。


 これはいったいどういうことだ。


「俺とみゆきは幼馴染です!!」


「そうです、ただの幼馴染です!!」


「いやいやいやいやいや!! ないっしょ!! こんだけ距離近くてただの幼馴染とかどんだけっしょ!!」


「「こんだけっしょ!!」」


「マジあり得ないし!! ちょっと待って、二人は付き合ってないし!?」


「付き合っていません!!」


「付き合いたいけど、愛が分からなくて付き合えていません!!」


「どういういことっしょ!?」


「だからギャルになってもらって、愛があるか確かめたいんです!!」


「だからギャルになりたいんです……タカちゃんのために!!」


「……みゆき!!」


「……タカちゃん!!」


「みゆき!!」


「タカちゃん!!」


 ひしり、俺たちは抱き合った。

 みゆき、今日も、俺のために頑張ってくれる、健気な俺の幼馴染みゆき


 お前がたとえ、語尾が「しょ」と「し」でしか構成されない、立派なギャルになったとしても、ちょっと頭が悪そうな会話をするようになったとしても――俺はお前を一人の幼馴染として、愛し続けることを誓おう。


 それが、俺の幼馴染道だ。


「いや、もう幼馴染のレベルじゃないっしょそれ!!」


「幼馴染です!!」


「幼馴染なんだ!!」


「壁が越えられないんです!!」


「幼馴染の壁を壊して彼氏・彼女の関係になりたいんだ!!」


彼氏田村にかまってもらえないウチに、この話は荷が重いっしょ!! ていうか、彼氏彼女になれてないし!! ていうかイチャイチャもできてないし!! なのにっていうか、ていうか――!!」


 勘弁して欲しいっしょ。

 そんな叫びと共に、鈴鹿姫子は俺たちの前から逃げ出したのだった。


「田村に構って貰えないウチが恋愛指南とか千年早いっしょーーっ!!」


「「す、鈴鹿先生ぇーー!!」」


 なんということだ。

 まさか、ギャルが尻尾を巻いて逃げ出してしまうなんて。


 恐ろしい――。


「……自分たちの幼馴染力が」


「……怖い」


「「「本当にな!!」」」


 クロスオーバーまでして、こんなオチとかないっしょ。

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