第13話 Q.ドロー!! A.青眼の白龍!!

 やはり、みゆきにばかり属性を押し付けるのはよくないように思う。

 俺は悩んでいた。このまま、みゆきに属性を強いることを悩んでいた。


 みゆきはいい娘だ。

 すごくいい娘だ。


 俺がこれといったら、何も疑わずに動いてくれる。何も疑わずに俺の求めるキャラクターを演じてくれる、そんな健気な女の子だ。


 そんな健気さにつけ込んで、俺は今まで属性を押し付けてきた。

 彼女が嫌だと言わないのを口実にして、属性検証と称して色んなみゆきを試してきた。幼馴染の壁を突破するという大義名分を盾に――多少楽しんでいた所があったように思う。


 いろんなみゆきと出会えることに、すくなからずわくわくしていた部分があったと思う。

 いや、もっと直接的に言おう――。


 猫耳みゆきに興奮した。

 年下みゆきや年上みゆきを想像してとても興奮した。

 ツンデレみゆきを思って興奮した。

 コスプレみゆきはめちゃ興奮した。

 眼鏡、たまらない。

 ゾンビに怯えるみゆきが愛おしく、新世界のアダムになろうと思った。

 天然みゆきはなんというか属性持ってるんじゃないかと思った。

 悪役令嬢ネタでキレたみゆきも最高に興奮した。怒られるのもよかった。

 みゆきのバブみはなかなかのものだったばぶぅ。

 メイドは見れなくって残念だ、本当に残念だ、みゆきメイド残念だ。

 そして食いしん坊みゆきもありだ。やっぱりデブは嫌だけど。


 とまぁ、そんな訳だ。

 俺ばかり属性検証で楽しんでいた。


 そしてそんな一方的な状況を俺はどうかと思っていた。俺だけがみゆきとの属性検証を楽しんでいていいのだろうか。他人に属性を押し付けるというその楽しさを――俺だけが享受していいのだろうか。そんな漠然とした不安を感じていたのだ。


 故に、以前、関白宣言と称して、自分に属性を課したこともあった。

 あのように、俺もまたみゆきに対して変わるべきではないのだろうか。


 それも、みゆきの望む方向で――。


「という訳で、今日はみゆき、お前が俺に属性を与えてくれないか!!」


「……タカちゃん!! 結構きつい告白を聞かされて、私はちょっとドン引きしてるよ!! そんな状況で、さらに属性を与えてくれとか言われても、結構こっちもしんどいよ!!」


「与えるんだみゆき!! 俺に属性を与えてくれ!! 最高にお前が萌え萌えになれる奴を!!」


「興奮してたんだね!! 私に色んな属性をさせることで、興奮していたんだねタカちゃん!!」


「……はやく与えてくれ!! お願いだ!! 早く!! これ以上は俺の精神が持たない!!」


「ごまかさないでタカちゃん!! 私で遊んで興奮してたのね!! そうなのね!! ひどいよタカちゃん!! けど好き!! 大好き!!」


「「「だからそういうのは他所でやってよ!! このバカップル!!」」」


 バカップルではない。


 何度言ったら分かるのだろうかこのバカクラスメイトたちは。

 俺たちはただの幼馴染なんだ。今現在進行形で、幼馴染継続中の男女なのだ。そこを越えて、真にカップルになるためこれだけ頑張っているのだ。


 そんな状態だというのに、頭にバカをつけてバカップルはないだろう。

 訂正していただきたい。


 バカ幼馴染と。


 確かに、俺たちはバカ幼馴染だと思う。これだけしっちゃかめっちゃか、人目を気にせず騒いでいたら、迷惑なバカ幼馴染だろう。

 こんなにバカな幼馴染――カップルでもそういないだろう。


 しかし、仕方がないのだ。

 すべては、真に愛し愛される、相思相愛の崇高なるカップルになるため。

 ならばバカ幼馴染とそしられようと、俺はあえてそれを受け入れる。みゆきのために。そして、俺たちの明るい未来ハッピーウェディングのために。


「さぁ、みゆき、俺にお前の好きな属性を与えてくれ!!」


「いや、与えてくれって言われても。急にそんなの思いつかないよ」


「悪役令嬢モノが好きなんだろう!! だったら、それで好きなキャラクターを思い出すんだ!! それを俺に与えてくれればいい!!」


「……え? えー? いいのー? 本当に、いいのー?」


 口元に手を当てて、伏し目がちに頬を赤らめるみゆき。

 こんなお願いしちゃってもいいのかなー、だいじょうぶかなー。

 そういう感じだ。


 戸惑う姿も――やっぱりかわいい。


 流石は俺の幼馴染だ。

 くそっ、俺が幼馴染じゃなければこんなかわいい娘、放っておかない。

 どうして俺の周りの男は、このかわいさに気がつかないんだ。


 まぁ、気づいたところでみゆきは絶対にやらんがな。


 みゆきが欲しければ、まず、俺を倒してからいけと、立ちふさがること間違いないがな。俺の壁はみゆきのお父さんの壁よりも高く険しいぞ。


「んー、んー、まぁ、私も悪役令嬢モノ、結構読んでるから。そだねぇ、そういうのでよければ出せるけど」


「いいぞみゆき、悪役令嬢モノの属性を持ってくるんだ」


「けど、乙女の複雑な心境を凝縮した属性だよ。タカちゃんに――できるかなぁ?」


「できるさ――俺はお前のためなら、どんな属性にもなれる!!」


「……タカちゃん!!」


「……みゆき!!」


「タカちゃん!!」


「みゆき!!」


「「「もういいよこのくだり!! さっさと属性検証しろよ!!」」」


 クラスメイト達がうるさいので、俺たちは絆を確認するのもそこそこに、属性検証に移ることにした。


 じゃぁ、と、膝の上に手を置いて、姿勢を正すみゆき。

 桃色をした唇が引き締まり、それから、ぱっと弾けてその言葉属性を紡いだ。


 そう、彼女が俺に求めてきたのは――。


「俺様系キャラでお願いします!! きゃーっ!! 言っちゃった、言っちゃった!!」


「俺様系キャラか!!」


「今でもタカちゃん、ちょっとそういう所あるけれど、もっと吹っ切った感じになって欲しいの!! それでねそれでね、甘い言葉を耳元で囁いて欲しいの!! ぎゅっと抱きしめてぇ――ずっと俺のそばにいろよ――って!! きゃーっ!!」


 恥ずかしそうに頬を抑えて、髪を振り乱してはしゃぐみゆき。

 すごいテンションだ。


 これが属性検証だということを忘れているのではないか。心配になるくらいの浮かれっぷりだ。


 普段、俺もこんな感じなのか。

 だとしたら、自重しなくてはな。

 ちょっとこれは人様に見せるのを躊躇するレベルだぞ。


 まぁ、クラスメイトが黙っているので、きっと大丈夫だろう。

 たぶん大丈夫だろう。


 みゆきの性癖の業の深さに、戸惑っているとかではないだろう。


「という訳で、タカちゃん!! 俺様系キャラ!! お願いしまーす!!」


「わかった。俺もそれほど悪役令嬢系のWEB小説を読んだことはないが。自分の知っている俺様系キャラで、お前を満足させてみせよう!!」


「期待してるよタカちゃん!!」


 俺様系キャラ。


 俺が知りうる限りのそれを、頭の中に思い描いてみる。


 そう、知っている俺様系キャラ。

 しっくりとくる最強のビジョン。


 すべてをねじ伏せ、あらゆる者を見下し、そして勝負に賭ける熱い男。

 見えた――そう思った時に、俺は腕を組んでその場に立ち上がっていた。


「この、凡骨決闘者デュエリストがぁっ!!」


「……えっ!! えぇっ!?」


「みゆき!! お前とは決勝の舞台で決着をつける!! せいぜい勝ち上がってくることだな!! 俺の待つこの高みまで!! フハハハっ!!」


「……違う。違うよタカちゃん。それは、俺様系キャラじゃないよ」


「何が違うというのだみゆき!! 俺とお前は永遠の幼馴染ライバル!!」


「当て字も変だよ!! お願い、帰ってきてタカちゃん!!」


「ずっと、俺のそばにいろよターン!!」


「そういう意味じゃないよ!! タカちゃーん!!」


 そう、海馬社長である。

 俺の中で俺様系キャラと言ったら、海馬社長である。


 それはもう悪役令嬢モノとか、そういうジャンルから探すまでもなく、俺の中で絶対的な俺様キャラであった。


 海馬社長は男のロマン。

 くっそかっこいぞ、あんなの。


 彼でなければ、いったい誰が俺様系キャラだというのだろう。

 俺様とは――彼のことを言うのだ。


「見ろ!! これが俺の青眼の白龍みゆきだ!!」


「違うのぉ!! そういう俺様じゃなくって!! なくってなの!! タカちゃん!!」


「「「それは社長だよ!!」」」


 当たり前だろ、社長なんだから。

 フハハ、強いぞ、かっこいいぞー。自分が属性持ちになるのも気持ちいいぞー。

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