最終話 Q.幼馴染ですか? A.それは間違いありません

「……結局、幼馴染の壁は越えることはできなかったな」


「……できなかったね、タカちゃん」


 がっくりと、肩を落として俺とみゆきは向かい合う。

 今日も今日とて、学校の昼休み。俺とみゆきは属性検証をしていた。


 しかしながら、流石にもう頭打ち。誰かがネタを出してくれない限りには、もう検証する内容もなかった。それと同時に、もうどうしようもなく俺たちは打ちひしがれていた。


 この世に、みゆきを好きになれる属性なんてないんじゃないだろうか。


「「「あきらめんなよ!!」」」


「……クラスメイト」


「……クラスメイトさん」


「「「お前ら、そこまで見せつけておいて今さらあきらめるなよ!!」」」


 励ましているのか、煽っているのか、クラスメイト達が声を上げた。

 どうしてこいつらは、こう、俺たちが頑張っているときにはちゃちゃを入れ、へこんでいる時には喝を入れてくるのだろう。もうちょっと、肯定して俺たちのことを応援してくれれば、属性検証も新しい方向性が見えてくるかもしれないのに。


 ほんと、もうちょっとこっちの気持ちを考えて欲しいものである。


「「「いや、考えて欲しいのはこっちだよ!! いい迷惑だよ、お前らのアホアホラブコメ時空に引きずり込まれるの!!」」」


 そんなものに引きずり込んだ覚えは残念ながらない。


 ないけれど、言い返す気力もない。

 もう、どうにもならないのだ――。


 幼馴染以外の要素を俺たちは、二人の中に見つけられなかった。

 残念ながら、それ以上の関係に発展することができなかった。


 今、確かにみゆきを愛おしいと感じる心は本物だが、それが恋心なのか、それとも兄弟愛や家族愛に通じるものなのか、それを切り分けることができなかった。


 二人の中にある感情を適切に切り分けたい。

 これが兄弟に感じる親愛なのか、それとも、異性に対する愛情なのか。


 それをはっきりさせて――みゆきのことを好きだといいたい。

 愛していると言って抱きしめたい。

 そう思ったのである。


「……みゆき、誓って言おう、俺は幼馴染として確かにお前を愛している」


「……タカちゃん。私もだよ。むしろ私は、タカちゃんを幼馴染としてじゃなく、一人の男として愛しているよ」


「こんな俺の、いったいどこがいいっていうんだ、みゆき。こんな、愛する女に対する感情を、整理できないダメな男の、いったい何が好きだっていうんだ――みゆき!!」


「そういう真面目なとこ!!」


「……みゆき!!」


「……タカちゃん!!」


「みゆき!!」


「タカちゃん!!」


 ひしりと俺たちは抱き合った。

 もう、今日はなんだか、すごく疲れてしまったので、抱き合った。

 このままもう、なんか一線を勢いで越えてもいいんじゃないかなと、そういう具合で、強く抱きしめあった。


「「「学校だからね!! あんまり激しいのはやめよう!!」」」


 クラスメイトの言葉で我に返った。

 こんなにも強く、体はお互いのことを求めているというのに。

 なのに、お互いの関係を明瞭にすることができないなんて。


 俺たちはなんて愚かなのだろう。

 なんて無力な子供なのだろう。


「いつか、大人になれば、この感情を上手く整理することができる日が来るのかな」


「私たちの感情が、恋愛か親愛か、切り分けることができるのかな」


「みゆき。俺がお前についての気持ちをしっかりと自覚することができるその日まで、お前は俺のことを待っていてくれるか?」


「いつまでだって待つよ!! タカちゃん!!」


「いつまでもか!!」


「おばあちゃんになっても待つよ、タカちゃん!!」


「……みゆき!!」


「……タカちゃん!!」


「みゆき!!」


「タカちゃん!!」


 俺はまたみゆきを抱きしめた。

 もう、押し倒して、そのまま夫婦になってしまいたかった。

 というか、久しぶりに長いこと抱き合っていたから、俺も流石に男の子――ちょっとムラムラしてしまった。


 むぅ。

 これ結構当たってるけど、みゆきは気がつかないんだよな。

 もしかして、俺のこと、ちゃんと異性として認識してないんじゃ。


 口では好き好き大好きと言ってくれているけど、こういう所で、微妙に気がついてくれない。そういう所が、今一つ、みゆきが俺のことを好きだと言ってくれるのに、確信を持つことができない部分なのであった。


 いや、けど、みゆきが――。


『……当たってるよ、タカちゃん』


 とか――。


『……固くなってるよ、タカちゃん』


 とか――。


『……昂ってるんだね、タカちゃん』


 とか、言い出したら、それはそれでみゆきじゃない気がする。


 鈍感というか、抜けてるというか、ピュアな所がみゆきのいい所なのに、台無しになるような気がする。


 うぅん。複雑。

 男として見て欲しいけれど、いざ見られたとなると、みゆきの可愛いポイントが損なわれてしまうという、相反する感じがもうどうしようもない。


 ただでさえ幼馴染という処理しがたい関係だというのに、これ以上、俺の頭を混乱させないでいただきたい。


「「「まぁ、兄妹とかならまだしも、幼馴染だから結婚できるし――大丈夫じゃねえ?」」」


「法律の問題じゃないんだ!!」


「心の問題なの!!」


「「「ほんと、クッソ面倒臭い、こいつら!!」」」


 心が通じ合うのが大切なのだ。

 愛し合っていることが大切なのだ。

 妹でも愛があれば関係ないように。

 幼馴染でも愛があれば関係ない。

 それを俺たちは証明したいのだ。


 故に――。


「やろうタカちゃん!! まだ、時間はあるんだから!!」


「そうだな、みゆき!! まだ、俺たちは高校生なんだから!!」


「「「ポジティブ!!」」」


「まだ、結婚したくても、できない年齢だしな!!」


「そもそも、お嫁さんにしてくれますかもなにも、日本の法律がそれを許さないしね!!」


「「「法律じゃなくて、心の問題じゃなかったのかよ!!」」」


 とにかく、前を向いて生きよう。

 そうすればいつの日かきっと、俺たちが――幼馴染ということを抜きにして、真にお互いのことを愛し合っているのだと気づくような瞬間が、きっと訪れるはずなのだ。


 そう、未来は明るい。

 信じることにより道は開ける。


「……みゆき!!」


「……タカちゃん!!」


「みゆき!!」


「タカちゃん!!」


 三度目の抱擁。

 もう、キスしちゃってもいいかな。

 そんなことを思いながら、俺はみゆきと固く繋がるのだった。


「俺たちの属性研究は……!!」


「……これからよ!!」


「「「もう、勘弁して!!」」」


【了】

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