15 秘めた恋心
ボクがどこかの
晩ご飯はちゃんと食べさせてもらった。晩ご飯のメニューはウラメシヤ牛の肉を使ったハンバーグ。本当はそんな
え? 味はどうだったかって? 考えていたよりもずっとおいしかったけれど、ハンバーグにかかっていたウラメシヤ名物イキチ・ドクドク・ソースというのが、どくどくと流れる生き血みたいに真っ赤で
食べてみたら、ふつうのデミグラスソースとあんまり味は変わらなかったけど。
……それにしても、タタリ王子のヤツ。ボクをこんなところに監禁しておいて、一度もこの部屋に顔を出さない。いったいどういうつもりなんだろう。
「あの……カナ・シバリさん。タタリ王子はここにはいないんですか?」
「ぜんぜんさしびくなんかないから……」
「ふふふ。そういうツンデレなところも、ノゾミ様はかわいいですね。今、王子様は戦いの
「戦いの準備? だれと戦うんですか?」
「もちろん、ノゾミ様のご友人たちです。
変人ぞろいって……。あなたたちにだけは言われたくないよ……。
でも、
……助けに来てくれるのはうれしいけど、また
ボクがそんなことを考えていると、ドアをコンコンとノックする音がして、クチサケ王妃が部屋に入って来た。王妃もこの屋敷に来ていたんだ。ということは、ウシミツドキ国王もここにいるのかな?
「ノゾミちゃん。ごめんなさいねぇ、うちのわがまま
クチサケ王妃はもうしわけなさそうにボクにあやまってくれた。
王族の人間が
王妃様、夫のウシミツドキ国王のことを「三段腹」とか悪口を言っちゃってだいじょうぶなんですか?
でも、あやまってくれるということは、こっちの
「あの……。せめてお風呂には入らせてください。汗をかいちゃって気持ち悪いんです」
「あらあら。気がつかなくてごめんなさい。女の子だから体をキレイにしたいわよね。わかったわ。三段腹国王の命令でこの部屋からは出せないけれど、カナ・シバリにノゾミちゃんの体を洗わせましょう」
「え? か、カナ・シバリさんがわたしの体を……?」
「カナ。ノゾミちゃんの体をぬれタオルでキレイにふいてあげなさい」
「はい。かしこまりました」
ち、ちょっと待ったーーーっ!
カナ・シバリさんって、ものすごく
いや、本当はボク、男なんだけどさ! 男同士だから本当は問題ないんだけど! でも、裸を見られて男だとばれたら別の意味で絶対にヤバイ! ボクをお嫁さんにするためにここまでしたのに、「実は男でした! てへっ☆」てなったらタタリ王子に殺される……!
「では、ノゾミちゃんのことをたのみましたよ」
そう言い残し、クチサケ王妃は部屋を出て行った。ボクとカナ・シバリさんは再び二人っきりになる。
「ノゾミ様。では、さっそく
「ま、待って? ちょっと待って? カナ・シバリさんがわたしの裸を見たらマズイでしょ?」
ボクがじりじりとあとずさりながらそう言っても、カナ・シバリさんはケロリとした顔で「いえ、何もまずくはないと思いますが」と答えた。
「なんでやねーん! なんでやねーん! ……あっ、あっ、やだやだ! 服をぬがさないでぇ~!」
ボクはカナ・シバリさんに服をぬがされそうになり、何とか
でも、部屋の中を逃げまわっても足がおそいのですぐにつかまってしまい、女子よりも
あれよあれよと言う間に制服をぬがされ、下着までぬがされてしまった……!
「おや? ノゾミ様はかわいらしい見た目に反して男物っぽい下着なのですね。…………うん? んんん⁉ こ、これは……!」
ガッデム! 一番見られたらマズイものを見られた!
「き……きゃぁぁぁぁーーー‼」
部屋中に
「やだ、やだ、お、男⁉ 王子様の妃候補が……お、お、おおおおお‼」
「お、落ち着いてください!」
あまりさわがれて人がやって来たら大変なので、ボクはカナ・シバリさんの口をふさいだ。
「む、むぐぐぅ~!」
「ええ、そうですよ! ボクは男です! 王子に女の子だとまちがわれて、こんなとんでもない目にあっているんです! ……だけど、男のあなたがなんでそんなにも顔を真っ赤にして
ボクがそこまで言いかけると、カナ・シバリさんはボクの手を払いのけ、
「…………実は、わたしは女なんです」
「え……? ええええぇぇぇーーーっ⁉」
今度は、ボクがさけぶ番だった……。
「なるほど……。文化祭でメイドさんのかっこうをしていたら、タタリ王子に女性だとまちがえられてしまったのですか。ノゾミ様……いえ、ノゾム様は女性よりも女らしいですからね」
ぬがされた服を着なおしたボクが今まで女装していた事情を説明すると、カナ・シバリさんは
「カナ・シバリさんはどうして
「前にもお話しましたが、わがシバリ家はウラメシヤ王家に代々お仕えしてきた一族です。だから、わたしも
でも、王子は昔から大の女嫌いで、そばには男のボディーガードしか置きたがらなくて……。だから、わたしは親の命令で男のふりをして王子のおそばにいることになったのです。このことを知っているのは、家族
「本人の
と言いつつ、そういえばボクも自分の意思とは関係なく女装させられていることを思い出した。女装した自分があまりにもかわいいので「別にこのかっこうのままでもいいかな」となかば
「……でも、それでよかったんです。だって、男のふりをしているおかげで、あこがれの王子様のおそばにいられたのですから」
カナ・シバリさんはちょっと切なそうな表情をして、ボクにそう言った。タタリ王子への
「カナ・シバリさん、もしかしてタタリ王子のことが……」
「…………」
カナ・シバリさんはポッと
「ねえ、カナ・シバリさん。あなたは男としてタタリ王子のそばにいられたら満足なのかな? それとも、女の子として愛されたい?」
「そ……それは……。本音を言ったら、女の子として王子のおそばにいたいです。でも、タタリ王子は大の女嫌いだから……」
「けれど、女装したボクのことは好きになったよ? つまり、女は
「あっ……。そ、そういえば、そうですよね……!」
カナ・シバリさんはキラキラと目を
「タタリ王子はどういう女の子なら好きになれるのか
「なるほど! とてもいいことを教えてくださり、ありがとうございます! タタリ王子の妃候補のあなたにこんな
「当たり前だよ。ていうか、ボクにはちゃんと好きな子がいるし、タタリ王子の妃になんかなりたくないもん。男だとばれたら殺されそうだし。タタリ王子がカナ・シバリさんのことを好きになってくれたらボクもあのわがまま王子から
「ああ……ノゾム様はなんていい人なのでしょう。まるで天使のようです。ご自分と王子の将来を
カナ・シバリさんは
あ、あの……。「ご自分と王子の将来を犠牲に」って、まるでボクがタタリ王子に恋しているように聞こえるんですが……。ウラメシヤ王国の人たちって、あんまり人の話を聞かないよね……。
「ま、まあ、なにはともあれ、タタリ王子がボクのどんなところが良くてほれちゃったのかボクも考えてみるよ。もしわかったら、カナ・シバリさんに教えてあげるね」
「なにもかもありがとうございます、ノゾム様。あなたはわたしの
あっ、そうか。「
「うん、わかった。これからよろしくね、カナちゃん」
ボクはニコッとほほ笑んだ。すると、カナちゃんは「か、かわいい……。女のわたしよりもかわいい」とつぶやく。
「……こんなにもかわいかったら、男だとわかっていても、男の人たちはノゾム様にほれてしまうかも知れませんね」
ふ……不吉なことを言わないでよ。
カナちゃんの言葉にボクがアハハ……と
なんだか、「わー! わー! わー!」とたくさんの人間がわめいているような声がする。
「なんのさわぎだろう?」
ボクとカナちゃんが
「
「予想していたよりも人数が多い! しかも、屋敷を
「ど、どういうことだ? 敵は、ノゾミ様の
「わからん! とにかく、だれか国王様と王子様に
どうやら、みんなが助けに来てくれたらしい。
……でも、屋敷を包囲? いったいなにが起こっているんです?
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