14 とらわれの姫君?

 ボクは目隠めかくしをさせられて、ヘリコプターでどこかに運ばれた。

 こっそりスマホで俊介しゅんすけに連絡しようとしたけれど、タタリ王子に見つかってスマホはヘリコプターの窓から捨てられてしまった。


 しばらく移動した後、目的地もくてきち着地ちゃくちしたらしい。ヘリコプターから下ろされ、だれかに手を引かれてボクは歩かされた。


 なにも見えず、自分がどこにいるのかさえわからない。ものすごく不安だ……。ボクはいったいどうなっちゃうのだろう。


「こ、ここはどこですか? ボクをどうするつもりですか?」


「そんなに不安がらないでください。……着きました」


 ようやく目隠しがはずされ、ボクは周囲しゅういを見回した。どこかのでかいお屋敷やしき一室いっしつのようだ。壁も天井もピンク、大きなベッドもピンク、そしていたるところにクマやネコ、イヌ、ウサギのぬいぐるみが置かれたとてもファンシーな部屋だ。……すごくボク好みである。


「しばらくの間、ここでおすごしください」


 カナ・シバリさんがボクにそう言った。どうやら、手を引いてボクをここまで連れて来たのは、カナ・シバリさんだったらしい。


 カナ・シバリさんが着ているスーツはあちこちがボロボロだった。

 姫乃ひめのちゃんの猛攻もうこうはすさまじく、苦戦したカナ・シバリさんは忍者が使うような煙玉けむりだまを投げつけて、姫乃ちゃんを一瞬いっしゅんだけひるませた。そして、姫乃ちゃんが動けなくなっているすきき、ボクをヘリコプターでさらったのだ。


「しばらくって……いつまでですか?」


「出国の手続きがすむまでです。日本にもっと長い間とどまる予定でしたし、日本国民の少女が突然とつぜん姿すがたを消すのですから、いろいろと根回ねまわしが必要でして」


「……え? そ、それって、ボク……ごほ、ごほ、わたしをウラメシヤ王国に連れ去るっていうことですか⁉ さ、さすがにそれは、綿堂めんどう総理大臣そうりだいじんが許しませんって!」


「ですから、いろいろと根回しをしているのです」


 マジですか……。で、でも、綿堂総理大臣もさすがにそれは許さないでしょ。さすがに……。


 ――わたしはそんな面倒めんどうごとで頭をなやませるのは嫌だ。なにせ、わたしの名前は『メンドウ・イヤゾウ』だからな!


 ボクは綿堂総理の無責任むせきにんきわまりない言葉を思い出し、ものすご~く嫌な予感がしてきた。


 ああ、うちの国の総理大臣の名前が「メンドウ・スキゾウ」だったらなぁ……。




            ☆   ☆   ☆




 ノゾムが誘拐ゆうかいされてしまった後、大失態だいしったいをおかしたナンバーセブン服部はっとり重蔵じゅうぞうは「ななみんに怒られる~!」と半泣きになりながら宮妻家みやづまけに走った。急いでこの緊急事態きんきゅうじたいをななみん――七海ななみ報告ほうこくしなければいけない。


 姫乃と俊介しゅんすけも学校にもどり、ノゾムがさらわれたことをミイちゃん先生に報告した。まだ学校に残っていた水野みずの真奈美まなみ織目おりめ糸子いとこもこの一大事を姫乃から聞き、


「それは大変だわ! 急いでノゾムくんを助けなきゃ!」


 と口をそろえて言った。


「でも、宮妻くんは今どこにいるのかしら? 昨日きのう宮妻くんの家のとなりに建てられたっていう別荘べっそうかな?」


 ミイちゃん先生が首をかしげると、俊介が「たぶん、それはないでしょう」と言った。


「ウラメシヤ王国のヤツらは非常識ひじょうしきな人間ばかりですが、馬鹿ばかではありません。さすがに、オレたちが知らない場所にかくしているはずです」


「たしかに、そうよねぇ~。ウラメシヤ王家のことだから、他にも日本のどこかに別荘を建てているかも知れないわ。でも、どうやって探せばいいのかしら? ネットで調べたらのっているかな?」


 糸子がスマホを操作そうさして調しらべてみたが、残念ながらそれらしい情報じょうほうはのっていなかった。


「あの……総理大臣に聞いてみたら、わかるのでは?」


 そう言いだしたのは、真奈美だった。真奈美は突発的とっぱつてき騒動そうどうがあるといつもあわててしまう性格だが、クラスの委員長をまかされているだけあって、クラスのみんなが本当にこまっている時は一生懸命いっしょうけんめいに知恵をしぼる女の子なのだ。


「おお~、なるへそ! 綿堂総理だったら、ウシミツドキ国王にまねかれてウラメシヤ王家の別荘に行ったことがあるかも! ……でも、わたしたちが首相官邸しゅしょうかんていに電話しても相手してもらえるかな?」


「だいじょうぶだよ、糸子ちゃん。元はといえば、綿堂総理が『面倒ごとは嫌だから』っていう理由でノゾムくんに無茶むちゃぶりをしたから、こんな大騒動おおそうどうになったんだもん。ちょっとぐらいは協力きょうりょくしてくれるよ。…………もしも、それさえも面倒とかぬかしやがったら、わたしが承知しょうちしねぇ! ……げふん、げふん、わたしが許さないもん!」


 姫乃が職員室しょくいんしつかべをドスン! となぐりながら言った。


「……そ、そうね! 首相官邸に電話をしてみましょう!」


 ミイちゃん先生は、ちょっとへこんでしまった職員室の壁をおびえた表情でチラチラ見ながらそう言い、首相官邸に電話をした。

 電話に出た女性職員に「わが国のトップシークレットの少女の件で、総理大臣にお話があります」と言うと、すぐに綿堂総理につながった。


「もしもし! 総理大臣ですか?」


「なんだね、君は。なぜ、日本国のトップシークレットの少女のことを知っているんだ」


「わたし、ノゾミちゃん……宮妻みやづまノゾムくんの担任たんにん高坂こうさか美衣子みいこです! 実は、ノゾムくんがタタリ王子にどこかへ連れ去らわれてしまって……」


「ああ……昨日電話で話した宮妻ノゾムくんの先生だったか。実は、わたしもさっきそのことを知ったんだ。電話でウシミツドキ国王から『あなたの国の少女をわが国に招待しょうたいしたいと思うので、許可きょかいただきたい。いや、これはけっして誘拐ゆうかいではない。だれがなんといっても誘拐ではない』などと言われてな」


「誘拐です! どこからどう見ても、これは立派な誘拐です! どうか、ウラメシヤ王家が日本で所有しょゆうしている別荘の場所を教えてください! お願いします!」


「ま、待て、待て! わたしがそれを教えたら、どうするつもりだ?」


「もちろん、ノゾムくんを取りもどします。無理やり連れていかれたのだから、なんとしてでも助けないと」


「う、う~む……。どんどん面倒なことになってきたぞ。宮妻ノゾムくんをめぐって外交問題に発展はってんしたらこまるなぁ……。嫌だなぁ……。面倒だなぁ……」


「でも、このまま放置ほうちしていても、ノゾムくんが男だとバレた時点で外交問題になるんじゃないですか?」


「え? ああ、そうか……。でも、力尽ちからずくで奪還だっかんしても外交問題になっちゃうしなぁ~……」


 受話器じゅわきの向こうから綿堂総理の「うーむ……うーむ……どうしよう。うーむ……」といううなり声が聞こえてくると、


 ドスン! ドスン! ドスーン!


 姫乃が無表情むひょうじょうで職員室の壁を再びなぐりはじめた。


「……許さない。ノゾムくんがピンチなのに協力してくれないなんて、絶対に許せない。…………許さねぇぞ……」


「お、おい。姫路ひめじ。よせって。こわれる、職員室がこわれる」


 俊介がドン引きしながらも姫乃にそう言ったが、姫乃の耳には届いていない様子だった。


「ゆるせないゆるせないゆるせないゆるせないゆるせないゆるせない‼」


 ドスーン! ドスーーーン! ドスーーーーーーン‼


「う、うわぁぁぁ! 職員室の壁がぁぁぁ~!」


「ヒメヒメちゃん、ストップ! ストーーーップ!」


 糸子と真奈美がそうさけんで姫乃を壁から引きはなそうとしたけれど、ビクとも動かず、姫乃の壁パンチは止まらない。


「さ……さっきからなにかすごい音が聞こえるが、どうしたんだ?」


「あの……綿堂総理。おとなしくウラメシヤ王国の別荘の場所を教えたほうが身のためだと思います。明日あたり、総理の体に穴が開くかも知れません」


「え……? そんなおどし文句もんくにはだまされな……」


「いえ、本気でヤバイです。うちの教え子、けっこうヤバイ子たちがそろっているので」


 ミイちゃん先生は、ベコボコになってしまった職員室の壁を横目に見ながら、そう言うのであった……。

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