10 われらななみん親衛隊‼

 ボクと姫乃ひめのちゃんが前よりも少し仲良しさんになれた後、ななみん親衛隊しんえいたい(お母さんの名前が七海ななみだから、ななみん。お母さんの親衛隊の正式名称せいしきめいしょうらしい)のおじさんたちが自己紹介じこしょうかいをしてくれた。


「オレは、某国ぼうこくやとわれているスナイパーだ。本名は明かせないが、コードネームはナンバーセブン。ななみんのことが大好きだから、自分のコードネームに『7』という数字を入れた。

 人々からは『死神スナイパー』と呼ばれ、恐れられている。お気に入りのななみんの曲は『あなたのハートをねらち♡』だ」


「それがしの名は、服部はっとり重蔵じゅうぞうでござる。ご先祖様せんぞさま伊賀いが忍者ゆえ、隠密おんみつ技術ぎじゅつをいかしてスパイをやっているでござる。あらゆる国々の情報を持っていて、いくつかの国にその情報を売っているでござる。お気に入りのななみんの曲は『放課後ほうかごしのびデート』でござる」


「オレは、隣町となりまち菜花なばな小学校の教師・とどろき熊太郎くまたろうです。若いころ、生徒たちをいろんな事故や危険から守れる教師になるため、雪山でクマと格闘かくとうして修業しゅぎょうしました。

 いま背負せおっているクマは、山からおりてきたクマが小学校の近くでうろついていたので退治たいじしたものなので、みんなでクマ鍋にして食べましょう。あっ、お気に入りのななみんの曲は『くまった、くまった、クマの恋人』です」


 この人たち……ツッコミどころしかない! 寸分すんぶんすきもないよ!


 なんでスナイパーとかスパイみたいな危ない人たちが、アイドルの追っかけをやっていたの⁉ 小学校教師が雪山修業をしてなにから生徒たちを守るの⁉ ていうか、お母さんの持ち歌、変なタイトルばかりじゃん‼


 この調子ちょうしだと、姫乃ちゃんのお父さんも、平凡へいぼんな見た目に反して、とんでもない人だったりして……。


「いちおう、オレも自己紹介しておこうかな。えーと、姫路ひめじ周作しゅうさくです。ななみん親衛隊のリーダーをやっています。職業しょくぎょうはただのサラリーマンです。お気に入りのななみんの曲は、もちろん、デビュー曲の『平凡へいぼんなあなたがわたしの世界一!』です」


「周作さんは、ふつうの人なんですね。仲間のおじさんたちがツッコミどころ満載まんさいだから、もっとすごい変人へんじんなのかなと思っていたけど」


 思ったことはハッキリ言うタイプのお姉ちゃんが、ズバリとそう言った。さすがに言いすぎである。


「周作くんは、わたしがまだかけ出しのアイドルだったころから応援おうえんしてくれている、一番古いファンなの。だから、親衛隊のリーダーをやっているんだよ♪」


「はい。ななみんとは、ななみんが十四歳でデビューしてから長い間の付き合いになります。かれこれ二十よん……ごふっ!」


 言葉の途中とちゅうで、お母さんが周作さんのみぞおちを光の速さで正拳せいけんきし、周作さんはその場でひざをついて「お、おげげぇ……」とうめき声をあげた。今の動き、ただの主婦の身のこなしじゃない。


「わたしは永遠えいえんの十七歳です☆」


「そ、そうでした。ごめんなさい……」


「さすがは、元アイドルですね!」


 姫乃ちゃんが、目をキラキラかがやかせながら、そう言った。


 いやいや、アイドルは関係ないってば……。


「まあねぇ~。アイドルって、たま~に変な人につきまとわれちゃうことがあるから。周作くんのお友達が護身術ごしんじゅつを教えてくれる道場を開いていて、そこでいくつかわざを習ったのぉ~」


「あっ、笑美えみ勇太ゆうたという武道家ぶどうかのかたの道場ですよね? わたしもその道場で護身術ごしんじゅつを習いました! わたしの家、笑美道場の近所きんじょで、勇太さんの娘さんとわたし仲がいいんです!」


 え? アイドル関係あったの? でも、さっきの正拳突きはあきらかに「護身」じゃなかったよね……?







 ボクたちが親衛隊のおじさんたちとおたがいを紹介しあっている間に、ウラメシヤ王国側でも動きがあった。


 宮妻家みやづまけ配備はいびしていた警備隊けいびたいがなぞのおっさんたちによって撃退げきたいされてしまったという報告ほうこくを聞いたウシミツドキ国王とタタリ王子が、武装ぶそうした男たちを引き連れて宮妻家にやって来たのだ。


「ノゾミ! 無事か⁉」


「宮妻家のみなさん! もう安心してくれ! あやしげな男たちは、わがウラメシヤ王国の精鋭せいえい決死部隊けっしぶたいが一人残さずつかまえてやるぞ!」


 タタリ王子とウシミツドキ国王の怒鳴どなり声が、家の外から聞こえる。

 窓からのぞくと、すでに突入とつにゅう準備じゅんびはできているようだ。決死部隊の兵士たちは手にライフル銃を持っていて、今からテロ集団と戦うような物々ものものしいオーラをただよわせていた。


「戦争をする気満々じゃん。あんなのが突入してきたら、うちの家、めちゃくちゃになるんじゃない?」


 お姉ちゃんがそう言うと、葉月はづきが「え~? やだぁ~! お家がめちゃくちゃになったら、嫌だよぉ~!」と半泣きになった。


「だいじょうだ。オレたち親衛隊にまかせてくれ」


「われらななみん親衛隊は無敵むてきでござる」


「あんなやつら、雪山でうんこをしている最中さいちゅうにクマにおそわれた時にくらべたら余裕よゆうですな。はははは!」


 ナンバー7さんがスナイパーライフルをかまえ、服部重蔵さんが忍び刀をぬき、轟熊太郎さんがこぶしをベキボキと鳴らす。そして、周作さんが、


「三人ともがんばれー!」


 と、応援おうえんした。


 ……周作さんは、基本なにもしないのか。


「わたしも戦います! ウラメシヤ王国の兵隊たちなんか追い出して、ノゾムくんの家の平和を取りもどしてみせます! ……あんなクソ生意気なまいきな王子、わたしがボコボコにしてやらぁ~‼」


 父親の代わりに、姫乃ちゃんがバットをブンブンりまわしてヤル気満々だった。


「家の前で戦争が起ころうとしている時点じてんで、ぜんぜん平和じゃないんだけどね……」


 お姉ちゃんがボソリとつぶやく。これにはボクもうなずかざるをえない。


「ななみん親衛隊、突撃ぃぃぃ‼」


 周作さんが号令ごうれいをかけると、親衛隊と姫乃ちゃんは家の外へと飛び出し、ウラメシヤ王国の決死部隊とドンパチ戦いはじめた。


 外国の王子が日本の少女(♂)にほれるという少女マンガ的な展開てんかいから、どうしてこんなことに……!







 結果けっかから先に言うと、ななみん親衛隊の圧勝あっしょうで終わった。


 人数はウラメシヤ王国側が圧倒的あっとうてきだったけど、実力はななみん親衛隊が圧倒的だったのだ。


 決死部隊がライフル銃を撃つ前にナンバー7さんが屋根の上から次々と狙撃して、敵の銃のほとんどを破壊はかいした。


 そして、残りのライフル銃の部隊もすぐに無力化むりょくかさせられてしまった。服部重蔵さんの手裏剣しゅりけん攻撃で手や腕にケガを負い、たくさんの兵隊さんが銃を取り落としたのだ。

 さらに、数人が轟熊太郎さんの怪力で銃を真っ二つにられてしまった。そんなまさかと思うかも知れないけれど、ウソじゃない。ボクはこの目で見た。この小学校教師、名前だけでなく怪力もクマなみだ。クマが銃を真っ二つにできるかは知らないけれど。


 ウラメシヤ王国の決死部隊が銃をこわされて動揺どうようしているすきに、ななみん親衛隊の猛攻もうこうがはじまった。


 服部重蔵さんが疾風しっぷうの速さで敵の衣服だけを切りきざみ、服がやぶれた敵はみんな丸裸まるはだかになってしまった。まるでマンガみたいである。


 男の人たちがみんな裸になってビックリした姫乃ちゃんが「きゃーーー! へんたーい! あっち行けぇぇぇ!」とさけびながらバットを振り回し、次から次へと敵をカキーン! カキーン! とはるかかなたへと吹っ飛ばしていく。……もしかしたら、敵をたおした数は姫乃ちゃんが一番多いかも……。


 姫乃ちゃんの次に敵をたくさんたおしたのは、轟熊太郎さんだった。


 右手に五人、左手にも五人を軽々と持ち上げ、


 ポイッ! ポイッ!


 と五メートル向こうへほうり投げ、また敵をポイポイポーイ! とほうり投げて……ということをくり返していったのだ。


 屋上にいるナンバー7さんは、敵兵士が仲間におそいかかろうとすると、兵士の足元に銃弾を撃ちこんで威嚇いかくし、仲間を守った。いちおう、殺さないように配慮はいりょはしているようだ。


 ななみん親衛隊と娘の姫乃ちゃんが激闘げきとうをくりひろげている間、周作さんは「やれやれ~! いいぞ~!」と応援していただけだった。……この人、なにをしに来たんだろう?


 とにかく、「ウラメシヤ王国の兵士って実は弱いのでは?」とうたがってしまいそうになるほど、ななみん親衛隊と姫乃ちゃんは強かった。


 姫乃ちゃん、本当に中学生なの……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る