7 お隣さんは王様一家
「ノゾミちゃぁ~ん! おっかえりー☆」
帰宅すると、お母さんがスリッパの音をパタパタとひびかせながら
お母さんは、二匹の
ボクは「ただいま」と言葉短く答え、トイレに
さっきは
あ、危ない、危ない。家までたどり着くことができたのに、玄関でもらしちゃうところだったよ。
用を足してスッキリしたボクはトイレから出て、お母さんに、
「お母さん、いまさっき『ノゾミ』って呼んだ……?」
と、言った。
朝は男子の
「もしかして、ボクの
「うん。だから、だいじょーぶよ。
お母さんは、息子のボクでも聞きほれてしまうような
ボクのお母さん――
ただ、十七歳だと
結婚する前はトップアイドルとしてテレビに
「じ、じゃあ、近所の人たちがみんな引っ
「うん。ウラメシヤ王国の王様とご家族が引っ越してきたことも、知っているよ。ノゾミちゃんが家を出た後、すぐにご近所さんたちの家がドッカーン☆って
「ひ、引っ越しそば? ウシミツドキ国王、日本の
「そうねぇ~。わざわざ王様と王妃様の二人で持って来てくださったから、あたしもちょっとあわてちゃったわぁ~」
「すでに家族ぐるみの付き合いが始まってる⁉」
まずいよ、これは。ボクの家のご近所さんになって、
「お……お母さんは
ボクは、息子が女の子になってしまってお母さんがショックを受けていないか心配し、そうたずねた。でも、お母さんはいつもの気楽そうな笑みを
「あなたは、元のノゾムくんでも、今のノゾミちゃんでも、あたしのかわいい子供なんだから。なにも変わらないわ」
「お母さん……」
「それに、『かわいさ
「……そうだね! かわいければそれでよし、だもんね! ありがとう、お母さん!」
「でも、王子様がノゾミちゃんを
えへん、と
ものすごい人脈……?
ボクのお父さんは、仕事で海外を飛びまわっているいそがしい人なので、めったに家に帰ってこない。だから、ボクはお母さん、中学三年生のお姉ちゃん、小学四年生の妹と
ボクもまあまあ能天気な
でも、ボクより三倍は能天気なお姉ちゃんと妹は、この
「いつタタリ王子がこの家にやって来るかわからないし、家の中でも女装していたほうがいいんじゃない? わたしのおさがりでかわいい服をみつくろってあげるから、ちょっとこっちにおいで」
「そ、そんなことを言って、ボクを着せかえ人形にして遊ぶ気なんでしょ⁉」
お姉ちゃんの
そんなお姉ちゃんが、ニヒヒ~と笑いながらボクの手を引き、自分の部屋に
「
「え? ファッションショー⁉ わーい、わーい! 楽しそう!」
妹の葉月まで、お姉ちゃんに声をかけられてついて来た。
葉月はとても
「も、もう……。お姉ちゃんはすぐにボクをオモチャにするんだから……」
「うっふっふっ~。そう言いつつ本気で
「どきっ! な、なんでボクの心が読めるの⁉」
「そんなことぐらい、わかるわよ。わたしたちきょうだいは、
「う、うう……」
「別に
お姉ちゃんはそう言いながら、ボクの前にたくさんの洋服をどさっと置いた。
うっ……。どれもかわいい服ばかりだ。
「さあ! 美少女ノゾミちゃんのファッションショーのはじまり、はじまり~!」
「わーい、わーい! ノゾムお兄ちゃんのファッションショーだぁ~!」
「ちがうよ、葉月。ノ・ゾ・ミお姉ちゃんだよ」
「あっ、そうだったぁ~。あはは~」
お気楽に笑うお姉ちゃんと葉月。
……し、
などと言いつつ、三十分後。ボクはのりのりでファッションショーを楽しんでいた。
「お姉ちゃん、このピンクのワンピースかわいいね!」
「おっ、いけるじゃん。だったら、こっちのフリルいっぱいの服はどう?」
「わー! これも、かわいい! 着てみる!」
「わーい! わーい! ノゾミお姉ちゃん、すっごくかわいい~!」
なにも知らない人が見たら、美しき
「気に入ったのなら、
「ありがとう、お姉ちゃん!」
さっきまでの
「そんなにも服をたくさん持って、どうしたんだ? クリーニングにでも出していたのか?」
部屋に入ると、タタリ王子がボクのベッドに
おどろいたボクは、ズコー! とずっこける。お姉ちゃんからもらった服は部屋中に
「なんでタタリ王子がボクの……げほ、げほ、わたしの部屋に⁉」
そこまで言って、ボクは大変なことに気づいてしまった。
ここはボクの部屋――男部屋だ。いろいろと
これは、まずい。そう思い、ボクは自分の部屋をぐるりと見まわしてみたのだけど……。
ベッドには、女の子たちに人気のゆるキャラ「うさずきんちゃん」(赤い
机にも、ネコやイヌの小さなぬいぐるみ。
そして、
……うん。まず男だと
「日本の
「
カナ・シバリさんが
「いやいやいや! カナ・シバリさん、そこで照れないで⁉ それ、思いっきり
「も、もうしわけありません……」
「それに、タタリ王子。さすがに女の子の部屋に
「いずれ夫婦になるのだから、別にいいだろ。おまえの物はオレの物じゃないか」
「そんなわけあるか! どこのジャイ〇ンだ! わたしの物はわたしだけの物だよ!」
「ふぅ……。わがままな女だな。わかった、
な、なんで、こっちが聞き分けの悪い女みたいになっているんだよぉ……。
「みんなぁ~、
ボクがタタリ王子の
「タタリ王子。うちの家、今から晩ご飯だからもう帰って」
「いや、おまえの母上にあいさつしたいから、いっしょに行こう。なんなら、晩ご飯を食べていってやってもいいぞ」
「庶民の料理は食べないとか言っていたじゃない」
「母上に言われたのだ。『あなたは庶民の娘をお
「わたし、ペットあつかい……?」
もう、どこからツッコミを入れたらいいのかわからなくなってきた……。
言っても聞かないだろうし、ボクは仕方なくタタリ王子(とカナ・シバリさん)といっしょにダイニングルームに向かう。すると、そこにいたのは――。
「おお。この
「なんとまぁ、
ニコニコと笑い、わが家の
ちなみに、クチサケ王妃の口は……
「あらあら、国王様と王妃様。いつの間に……」
さすがのお母さんも、無断で入って来た国王夫妻にビックリしているようだ。日本では他人の家に勝手に上がりこむ人間はまず
「息子がほれた日本の少女とはどんな子なのかひと目見てみたくて、お
「ノゾミちゃん。タタリ王子のことをよろしくお願いしますね。う、う、う……。女嫌いで性格が地上最悪なタタリ王子にも、やっと恋人が……」
タタリ王子……。母親に「性格が地上最悪」とか言われるって、日ごろからどんだけわがままに
「父上、母上。いくら王族とはいえ、不法侵入はいけませんよ。ノゾミの家に勝手に入るのはやめてください。ノゾミとその家族に
いやいや、君もついさっき不法侵入したでしょ? ボクが注意したことをいちおう守ろうとしてくれるのはうれしいけど……。
「いつもわがままで
おどろいて目を見開くクチサケ王妃。この王妃様、おっとりとした見た目のわりには
「母上。オレは傲慢でも鬼畜でもありません。ノゾミの前で変なことを言わないでください」
「あら、本当のことなのに……」
さすがのタタリ王子も、母親には頭が上がらないらしく、いつものでかい
「わぁ~! 王様と王妃様だぁ~!」
いつの間にか、深雪お姉ちゃんと葉月もダイニングルームにやって来ていて、王冠をかぶった国王夫妻とイケメン王子(鬼畜)を
「へぇ~……。王子様、かなりのイケメンじゃん。あんなの、アイドルにもいないよ。あんたが本当の女の子なら、
お姉ちゃんがイタズラっぽく笑いながら、ボクに小声で耳打ちする。
たとえボクが女でも、こんな
「はぁ~……。これから本当に、どうなっちゃうんだろう……」
まさか外国の王族と近所づきあいをすることになるなんて、夢にも考えていなかった。めちゃくちゃ先が思いやられるよ……。
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