第6話 タイムジャンプスライディング土下座でヤれたぜ
無事に橘さんとお付き合いすることになりました。
いやぁー。
いやぁ~~。
彼女ができるってこんなに心がうきうきするものなんですね。
僕、生まれて初めて彼女ができたから、ちょと今、舞い上がっています。
もし僕がまっとうな超能力者だったなら、ベッドの上でふわふわと浮揚しているんじゃないかというくらいに、僕はうわついていました。
えへへ。
明日から、恋人の橘さんと一緒に、文化祭の準備かぁ。
青春だなぁ。
恋愛ドラマだなぁ。
ラブコメディ――は、きついサブキャラが居るからちょっと嫌だなぁ。
サイキック兄さんのせいで僕の人生ギャグ漫画。こんなまともな青春を送れるとは思っていなかったので、彼女ができたという人生における大イベントに、僕はたいそうその精神を揺さぶられてしまった。
うん、流石に全部兄さんのせいにするのはどうかと思うけれど。
努力する余地はあった気もする。
けどまぁ、それはそれだよ。
えへへー!!
「よかったな新次郎!! けど、お兄ちゃんは、自分より弟の方が脱童貞が早いかもしれないという危機に、ちょっと複雑な心境です!!」
「……そんな下世話な心境を吐露しないでよ兄さん」
「もし、橘ちゃんとよろしくファイト一発ヤれた際には……橘ちゃんのお友達を、お兄ちゃんに紹介してくれる方向でどうかオナシャス!!」
「……自分の兄に傷物にされるかもしれないと分かっていて、紹介してとか頼めると思います? それに僕と橘さんは、もっとこうピュアなお付き合いをするんだ」
「新次郎。最初のデートでヤれる確率は――30%くらいらしいぞ」
「だから、ピュアなお付き合いをするんだって!! 言ってるじゃん!!」
なんでもかんでもヤれるか、ヤれないかで考えるのは悪い癖だよ。
なんなの、上半身じゃなくて下半身に脳みそがついているの。
それとも股間に何か寄生生物でもすまわせているの。
まったくやれやれ。
僕はかぶりを振ってから、自分のベッドの上で寝返りを打った。そして、橘さんとのメッセージ画面を開きながら、「明日の文化祭の準備楽しみだね」と、ノロケた文章を意味もなく彼女に送信するのだった。
すぐに既読がついて、かわいいスタンプが送られてくる。
それから、「席も近かったら、もっと自然に一緒に居られるのに、残念だね」なんて、かわいいメッセージを彼女は返してくるのだった。
うぅん、今すぐ、時空を越えて、橘さんに会いに行きたいよ。
恋をするって、素敵なことだね。
「ところで新次郎」
「……なんだい。まったくアドバイスが役に立たなかったばかりか、無駄にひっかきまわしてくれた、超高校生級童貞黒帯五段の兄さん」
「お前は言葉の剣道三倍段かよ。傷つく言葉の三段突きやめてよほんと」
「それならはっきり言うけど」
なんで僕の部屋にいるのさ。
僕が寝そべっているスプリングベッド。その横で、床に座り込みベッドに背中を預けながら、ふんふんと鼻を鳴らしてなにやら袋をあさっている兄さん。そんな彼を、僕は睨んだ。
負の感情と共に兄さんを見た。
兄弟で同じ部屋をシェアしているという展開が、漫画や小説なんかではよくあるものだ。けれど、僕たちの家は違った。一応、二人とも別々の部屋に別れて生活している。
この兄である。もし、一緒の部屋で生活するとなったなら――いろいろと、こう、主にすえた匂いとかで悩まされることは目に見えている。
なので、父さんと母さんの気の利いたこの計らいに、僕は素直に感謝していた。心から感謝していた。
だというのに――なんで兄は僕の部屋に居るんだろう。
「いやね、橘ちゃんのことは、まぁ、喜ばしいことだとしてだね」
「うん!!」
「元気!! 新次郎元気だね!! ちょっとお兄ちゃんイラっと来た!!」
「橘さんとラインでいちゃいちゃメッセージのやり取りをしたいから、自分の部屋に戻ってくれよ兄さん!!」
「そんで言葉も選ばなくなってきたなぁ、このスケベ!!」
「兄さんほどじゃないよ!!」
ヤれる、ヤれないの二元論で、女の子を見ている兄さんほどじゃない。
僕はそういうんじゃないんだ。
もっとふんわりとしたプラトニックな関係を目指してるんだ。
だから、兄さんのちょっと過激なアドバイスは必要ないんだよね。
どういうつもりか知らないけれど部屋に戻って――。
「けど、やはりスケベの予習・復習は大切!! 俺秘蔵のD・V・Dを持って来たぜ!!」
「このご時世に兄D・V・D!!」
「ブルーレイディスクだとお高めだから!! お高めだから!!」
袋の中からDVDを取り出して、兄さんはドヤ顔をした。
しかも、冊子付だった。綺麗なお姉さんが、あっはんな感じでうっふんなポーズをとった、そんな総天然桃色雑誌であった。
なんで兄さんそんなの持ってるの。
どうして兄さん、そんな持ってちゃいけないモノを持っているの。
え、高校生でしょう?
「ほら、男子高校生は日課で、川とか貯水池に捨てられたエロ本拾うだろ」
「……日課なの?」
「朝と夜に行けば拾える!!」
ろくでもない。やっぱり兄さんはろくでもない。
川原で、ないかな、どうかなと、エロ本を捨てられるのを待っている。そんな情けない兄の姿を想像して、僕は言葉にできない気分に陥った。
しかし、捨てられていたエロ本にしては、妙にこう――。
「……風雨に晒された感がないね」
「ふふっ!!」
「……まさか、兄さん!!」
「なぜ俺が毎日のように自衛隊横の貯水池に通っているか――その意味に、ようやく気づいたようだな、新次郎!! そう、捨てられたエロ本を可及的速やかに
「マジかよ兄さん!!」
「見つけるやすぐに
なんて、情けない上に、しょーもないことをするんだ兄さん。
そりゃ、捨てる方も、顔を見られたくない訳だから、夜中とか、朝方とか、顔の見えにくい時間に捨てるのだろう。そこに土下座で、どうかお譲りくださいと言えば――まぁ、成功確率は悪くないように思う。
けれどもそんな――そんなことに能力使うなんて。
「毎度思うけれど、筒井康隆先生(時をかける少女の著者・日本SF作家の重鎮)に申し訳なくないの?」
「ぜんぜん!!」
まったく制限なく、ぽんぽんと世界線を越えて変えちゃうんだもの。
ほんで誰も泣く人が居ないって。
敵わないよ兄さん。
ほんと、最低のタイムジャンパーだよ、兄さん。
「という訳で、橘ちゃんとのABCの予習だ!! 見るだろう新次郎!!」
「見ないよ!! そういうの、まだ僕には早いから!!」
「見ようよ!! お兄ちゃんも初めてだから、一人で見るの怖いの!!」
「ホラー映画じゃないんだから!! というか、そんだけはっちゃけておいて、エロ動画みたことないの!?」
ぷるぷる。
震えてうずくまる兄さんに、僕は顔をひきつらせた。
そんな性知識で、いったい何をヤるつもりだったのさ、兄さん。
僕だってネットでちょっと見――。
いや、げふんげふん。
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