10 元魔王さまが、旅に出るときの持ち物が一つ、永遠に装備されました。

 わたしはふと、目を覚ましました。周囲は…あら、見慣れたお部屋です。これ、エレーミアのわたしの寝室ですね。

 夢でも見ているのでしょうか。

 いや、ないですけど。

 でもそうだったらいいなっていう、願望です。

 だって、だって!


「よう、元魔王さまっ!」

 いやああああっっ!?

 どうして鳥籠の中に首の勇者が入ってるんですかぁぁぁっ!?


「お、いいなそれ、”首の勇者”、それ貰いっ」

「あげますよ貰っていってください熨斗つけてさしあげますだからいますぐここから出てってくださいぃぃぃっ!?」

 そんなわたしの悲鳴を聞きつけた宰相殿がやってくるまで、さほど時間はかかりませんでした。


   ※ ※ ※


「まあ、そういうわけでして……放逐するわけにも、いかず」

「ああああああぅぅぅぅぅぅあぅあぅあぅあぅ」

 理由を聞かされたわたしはもう泡を食うしかありませんでした。

 だってだって、わたしがやった治癒術、あれが原因だっていうんですよ!?

 つまりですね、あの治癒術を途中放棄してしまったために、術が暴走しておかしなことになり、勇者がマジで首だけで生きていられるようになってしまったらしいんです。

 なんですかその出鱈目な理屈、勇者ってなんなんですかっ!?


「さすがにこれは予想外でしたが、単純に、規格外生物と思えばよろしいのですよ」

 達観した瞳がにっこりと笑ってくれました。


「規格外…生物?」

「ええ、そうです。既存の常識に当てはまらない存在、それが勇者です」

 どこか遠い目をする宰相殿。ああ、貴方も信じたくないんですね。理解したくないんですね。事実だと認識したくないんですね!?


「当たり前でしょう! けっきょく押し付けられてしまったんですから!!」

 首だけで生きてるとか、妖魔でも不可能ですしね。規格外生物…そのとおりですね。生物の枠に当てはめていいものなら。


「そう、そこ! なんで押し付けられたんですかそしてお姉さまはどこですか!?」

 いないんですよ、お姉さま。この屋敷の中に。宰相殿の館にでもいるんでしょうか?


「貴方が直接の原因を作ったからに決まってるでしょう!」

 あああああああうごめんなさい。しょぼん。


「それからあのお嬢さんは、お返ししました、お国に」

「え?」

「ですから、国に。元凶の勇者はここにいますし、問題ありませんでしょう?」

「え、あ、うん、うん。…え?」

「二週間も寝とぼけてるから挨拶すら出来ないんですよ」

 え、ほんとに? 帰ってしまわれたんですか、お姉さま?

 ちょっとくらい、会いに行ってもいいですよね?


「まあ、そこの勇者との和解もなりましたし、宰相としましては、元魔王さまが旅に出られましても困りはいたしません」

 わ、めちゃくちゃ物分りいいよ、この宰相さま。いやいやないって、ないない。ぜったいなんか、ある。


「でもそのときには、”それ、連れてってくださいね”」

 は? ちょっと待ってそれ術式発動句だよね?

 それって、それってこれ?

 鳥篭……?


「もちろん、中身ごとです。しっかり、管理してくださいね?」

「よろしくな、魔王さま」

「……いやぁぁぁぁぁぁっっ!?」


 元魔王さまが、旅に出るときの持ち物が一つ、永遠に装備されました。

                                 fin.

 

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隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている! 冬野ゆすら @wizardess

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