5 賢者が仲間になりたそうにこちらを見ている!

「さて、どうしましょうか…もぐもぐ」

「えっとー……逃げなくていいのかな、とか。はぐはぐ」

 温泉を上がりまして二人、夕涼みに出ております。屋台村のフードコートでお食事中です。いえね、ちょうど今、感謝祭の真っ最中でして、夜店が目一杯出てるんですよ。昨日の町でもけっこう盛況だったんですよ?

 感謝祭はまあ、収穫祭も兼ねているので、いろんな食べ物が用意されます。もちろん、それを料理したものもたくさんです。そうそう、実はその料理を目当てに魔物たちが寄ってくるので、悪戯されないように魔物のふりをする、なんていう風習、ご存知でした?


「うちの島でも、けっこう派手にやってたから」

 ということで、子供用の顔を完全に覆う猫仮面と、精霊ドレスなんていうもので、お姉さまを着飾ってみました。流石にこれなら、知り合いであっても気づけないでしょう。

 え、御代ですか?

 そんなもの、わたしのポケットマネーに決まっています。この程度、痛くもかゆくもありません。

 あ、わたしも同じような猫仮面ですよ。猫の姉妹ですね。

 最初はお姉さまもびくびくしてましたが、もう馴染んでますね。

 いちおう、遊んでいるのは理由があります。一つは情報収集ですね。もう一つは、街門が閉まっているので出られないこと。最後の一つが、祭の最中に宿に篭るとか、妖しすぎるでしょ。ってことです。

 何しろ年に一度のお祭です。新年の祭は厳かに年越しを祝うだけのものなので、ここまで羽目を外したりしないんですよね。それを楽しまないとか、妖しいひと扱いされちゃいます。


「明日には出るから、それでもいいけどね?」

 お姉さま、ソレヲイッチャアオシマイヨ?

 でもけっこう、楽しんでますよね?


「うん。こういうの、食べさせてもらえなかったから」

「え?」

「俗なものを食べるなって、勇者が。太るから」

「太るって…いえ、お姉さま別に、もう少しふくよかでも問題ないですよね?」

「…旅に出てから、やせたよ?」

 おい、勇者ども。

 それが如何に危険なことか、妖魔のわたしが知ってるんですが……?


「太ったら花嫁衣裳着れないだろって」

「――はい?」

 意味がわかりません、と首を傾げたところで、お姉さまに両肩を捕まれました。


「薔薇の花、渡されたの。人前で」

「あはは、ちょっとかぶれてますね」

「今度は年の数だけ揃えるから、年齢を教えろって」

「ありえませんね!?」

 花束を渡すまではまだしも、でも旅の身でそれをやる時点で考えなしすぎるというのもそもそもないとは思いますが、年齢を人前で聞く?

 お姉さまがいくらお若くても、それはありえません。


「あと、服を買ってやるからサイズを教えろっていうのも」

「それも、人前ですか?」

「うん」

「ちょっと、正座で一日説教が必要ですね」

 ていうか連れの方々、…説教とかしなかったんですか。それなりの地位にある方ですよね、特に目の端でちらちらしている賢者さま?


「あと、お前以外と結婚する気はないから、他の男と口をきくなって言うのも言われた」

「馬鹿ですか、あの勇者」

「でも、純潔守るから部屋は一人部屋って」

「……馬鹿ですね、あの勇者」

「自分はなんか、娼館言ってるみたい」

「馬鹿でしょうそれが勇者!?」

 あくまで回りに聞こえないよう声を抑えて、はいるんですが…!

 お姉さまの無表情を見たら、それがどんなものかわかりそうなものですが!


「勇者候補だよ、あれ」

 あら、あれ呼ばわりですか。…お姉さま、お目目が据わってますよ?

 ていうか、候補ですか。まだ勇者足り得ない…というかただの勇者志願者?


「なんかね。”英雄、色を好む”とか言ってた」

「それは英雄に成り得た豪傑を後世の人間が評した言葉ですよ! 色好みだから仕方ないって言う、ただのあきらめの言葉であって褒め言葉じゃないですよ!」

「そうだよね!?」

 あらあらお姉さまが泣き出しちゃいました。…あ、あれ? わたし、いつの間にお酒を買ったんでしょう? しかも、小瓶とは言え、ほぼ空ですよ??


「ガレットのお店でおまけにくれてたよー?」

 ガレット…ああ、蕎麦粉のクレープですね。そういえば色々買いましたね、明日のお弁当になりそうで。ああ、シードルですか。ってシードルですよ、シードルってめっちゃ弱いお酒のはずですよ!?

 これで酔っちゃったんですかお姉さまっ!

 あ、炭酸だから酔う人は酔うかもしれませんね……。

 どこかで水か何か…あら?

 やばいです。周囲から人が減ってます。そういえばけっこう静かになってましたね。てことは、かなりの時間ですよね、これ?

 まだ人がいるうちに帰らないと目立っちゃいますね。何やら視線を感じますし。

 ……ええ、高齢のお爺様らしき影がさっきから目の端にいるっぽいですけど、知りませんわかりません見えません気づきません振り返りませんよっ!


「ささ、お姉さま、そろそろ帰りましょう、たっぷり買いだめしましたから、お部屋でも楽しめますよ、帰りましょったら帰りましょっ」

「んー……」

 ふらり、とお姉さまが立ち上がってくださいました。ああ、よかった。歩いてくださいねご自身で。いえ運べますけれど、こんな子供がお姉さまを目立ちすぎるでしょう。


「わ、わわっ!?」

 ぺたん、とお姉さまが地面に座り込みました。流石に突然で、支えられなかったです。ど、どうしたんですかお姉さま?


「すー……すー……」

 いやそんなベタな、歩きながらって寝るってそんなっ!?


「はは、その娘、酒に弱いからのぅ。どれ嬢ちゃん、宿まで連れて行くから案内しなさい」

「いえけっこうです別に手助けいりませんのでお気遣いなくお構いなくお爺様も遅くならないうちにお帰りください」

 目立とうがなんだろうが、お断りです関わりたくないんです逃げるが勝ちです!

 一瞬にしてお姉さまを担ぎ上げ、屋台村の端へ転移します。次に近場の家の屋根へ転移して、周囲を確認。

 あ、お宿が見えました。流石に自分の部屋がどこかはわからないので、とりあえず宿の屋根に転移です。そこからいったん、中庭へ。贅沢ですよねぇ、四季が楽しめる中庭があるんですよ、このお宿。

 さて、ここからはまあ、素直に歩きましょうか。


「ほほぅ、いい宿を取ったのぅ」

「!?」

 あわてて階段まで転移しました。踊り場へも転移して、廊下へ飛び出して反対側の階段の前まで転移して、更にそこから踊り場を経由しつつ階を移動します。


「さす、がに、きつ…っ」

 ふらふらです。体力尽きます。そういえばこの身体、今までより弱いんでした。

 え、どうして一気に転移しないのかって?

 単純な話です、転移術は視覚の範囲内…見えてるところにしか移動できないんですよ。お部屋が見えていたはずなので、直接移動も可能だったんですけれど、流石にどの部屋が自分の部屋かなんて、わからないですからね。


「ほれほれ元魔王殿。無茶しなさんなや?」

 ……どうしてわたしより先に部屋の前にいるんですかぁぁぁぁ!?


「まあそこは、年の功ってやつでな? ほれ、あんたなら正体、わからんかな?」

「あいにくと、盟約術に囚われた相手の情報は隠蔽されまくりなので、わかりません」

 鍵がかかっているはずの部屋の戸を開けるお爺様を警戒しつつ、お姉さまと共に部屋に入りまして即、ブロックです。

 入れて成るものか正体不明でわたしの裏をかける賢者とか係わり合いになりたいものではありませんっ!


「無駄なんじゃな、これ」

「だからどうしてそこにいるんですかぁぁぁぁっ!?」

 応接間のソファに寛ぐお爺様……転移術ですよね、どうみても。これはもう、正体確定、ですね……。


「正体がわかったところで、一つ提案なんじゃが」

「お断りします」

 即答しておきましょう。この手のお爺様は、絶対に厄介ごとを言ってきます。


「流石にそれ、傷つくんじゃが」

「いえいえ、提案を蹴るのではなくて、提案を聞くこと自体を蹴っているのですから傷つくことはありませんよ?」

「いやいやいやなんかおかしいじゃろうその理屈!?」

 わめくお爺様は無視しまして、とりあえずお姉さまにはお隣の寝室でお休みいただきます。お着替えは…うん、そうしましょう。術を使ってドレスと寝間着の変換です。妖魔ってほんと、好き勝手出来て楽ですよねぇ。


「まだいたんですか」

「まだも何も話がはじまっとらんじゃろうが」

「聞く気はありませんから”お引取りください”」

 ばしっ。

 ……あら。術式を弾かれましたね?

 あ、これですか? 扉を開けて部屋の中にいるものを外へ放り出すという術式です。わたしが考えました。便利ですよ、意外と。


「歴代の発動句と並びますね、それ」

「あそこまで夢見る台詞じゃないですから、いいんです!」

 ていうか、弾かれてしまったのでおじい様、そこにいますし。弾いたのが第三者とか、やめてくださいちょっとそれまじでなんでお前がそこにいる!?


「知己ですから」

「知己? そのお爺さんが?」

「ええ。知己と言うよりエレーミアの間者ですよ」

「間者? …間者が勇者の護衛をやってるのですか?」

「ええ。まったく役に立たない間者ですね」

 あら、何やらお爺様が小さくなってます。うーん……どうしましょう、ちょっとかわいそうになってきました。

 まあとりあえず、話だけ聞きましょうか……逃げられませんし、どうせ。

 ていうか魔王に存在を知らされない間者って何ですかそれ。


「おや、察しのいいことで。そうですねぇ、どこからお話ししましょうか?」

 わたしが魔王位を押し付けてきて、今頃はてんてこまいしているはずの宰相殿が、とてもいい笑顔でそう、のたまいました。

 聞きたくないので、過去はいいです。お爺様に同情してしまいそうですし。


「では、最新の情報を。貴女が玩具にした、勇者候補生ですが」

 覚えてるよねと言わんばかりに、素晴らしい笑顔が割り増しされました。流石に昨日のことですから、忘れてませんよ?


「元魔王を倒したことで、認定勇者に格上げされることになりました」

「は?」

「何でも、’起死回生’の勇者だとか。あなた、馬鹿やりましたね」

「起死回生……って、え、あれ? あれのせいなの!?」

 だってあれ、戦略的撤退ですよ、術式で目前から姿を消しただけで止めさせてないですよ!?

 一撃入れられたことは認めますけども!


「元魔王を刺したんですよね?」

「でもでもでもでもあれは勇者が持ってた剣の切れ端というだけで!?」

「あ、あれ一応、聖剣ですじゃ。散刃の剣といいましてな、折れた欠片が操れる奴での」

 そ、そんなものがあるんですかぁ!?


「なので、十分に条件を満たしたと、同行していた王子によって認定されてしまいましてね?」

「王子?」

 思わずお爺様を見ます。


「嬢ちゃん、流石にそれはないってわかっとるじゃろ」

「ですよねー」

 王子というからには女性ではないはずなので、そうすると……だれかいたような気は、しますが?


「治癒士の嬢ちゃんを守ってた剣士じゃよ。ほれ、あんたが脅しに使った破片を切り飛ばした奴がおったじゃろ?」

 あー…ずいぶん腕がいいとは思いましたが、そうですか、そういう立場の人でしたか。そりゃま、それくらいは出来るかもしれませんねぇ……。

 王子さまかぁ。うーん、お顔を覚えていないのが残念ですねぇ、何せ見えませんでしたし。


「で、ですね?」

 あ、現実逃避がばれました。当然ですかそうですか。


「認定勇者を筆頭に、魔王討伐軍が結成されるそうです」

「魔王ってエレーミアにしかいませんよね?」

「たまに魔王を名乗るお馬鹿さんがいますけど、基本はエレーミアのトップですね。そういう認識でいいのですよね?」

 視線を向けられたお爺様が頷きます。ふむ、するとやはりエレーミアへ進軍するつもりですかね?

 この国、各都市を守る常駐兵はいますけれども、遠征に出られるような軍隊というものがありません。必要時のみ召集されることになっています。軍隊を常時養う必要がない、便利な制度ですね。まあこの国に限らず、ほぼどこの都市もそんな感じです。何せ、必要がありません。働き手を縛り付けるだけの財政もけっこうな負担ですし、トラブルの元にもなりますから必要時召集のほうが都合がいいんですよね、上としては。

 さて エレーミア妖皇国は、北限に近い地域が領土になっておりまして。術やら品種改良やらでそこそこの収穫があるのですけれど、収穫期が他国とずれるんですよ。早生は収穫できているはずですが、通常種はまだ、半月から1ヶ月程度、先になります。で、その収穫期がちょうど重なるわけでして。

 そこへ来て軍隊、となると……進軍先の畑に気を使うはずもありませんし、いっそ焼き払えとかそう考えるのもごく普通。食糧としては必要としてないのでそういう意味では問題になりませんが、折角育てたものをみすみす焼かれるのは我慢ならないですね?


「手は?」

「予想される進路上には結界を張り巡らせました。が、流石に広さに対して人数が少なく」

 そりゃそうですよね。エレーミアは妖魔の国、総数掻き集めても千人に満たないのですし。いや、気候が厳しいからね、人間が移住してこないんですよ。そもそも、そういう理由で選ばれた地での建国ですしね。


「国交がある国には陸路停止の通達。移動中の隊商は…興図使っていいですよ」

「仕方ないですね、危なそうなら使わせます。しばらくは外洋航路メインの取引に切り替えましょうか」

 実を言えば、エレーミアは交易国家です。陸地で接しているのは勇者を抱くこの国だけですけれど…正確には他にもあるのですが、何分砂漠が間にあるので、そこを通っての交易は流石に行われていません。その分、海洋路が発達していまして、けっこうな数の船団を組んで買い付け、売りつけに来てくれる国は少なくありません。たまにこちらからも船を出しているそうですが、ほとんど旅客船扱いですね。

 もちろん、その海路を狙おうと思えば可能ですので、各船に一人、妖魔を護衛に乗せています。一人で出来ることは流石に限られますが、船の護衛に専念させればその間に威力外まで逃げ出せるので、十分です。

 そのうちの外洋航路、ちょっと海が荒れる時期ではありますが、通達を運ぶ妖魔がそのまま護衛につきますから、まず問題はないでしょう。そもそも、向こうから来た航路ですし。

 ええ、まさか外洋を使って半年かけてきてくれるなんて思わなかったそうですよ、初代の魔王さまも。


「ところで、陸路でしか来ないというのは確実ですか?」

「ええ、今のところは。…ですよね?」

 賢者様が頷きました。あ、いたんでしたねそう言えば。

 ひでぇ、と呟く声が聞こえましたが、知りませんよそんなこと。でもどういうルートで来るんでしょう、砂漠があるんですけどね?


「いや、とりあえず勇者が船酔いするから」

「そういう理由なんですか!?」

「なんでそれで勇者認定するんです……」

「わしに聞かんでくれ、それ」

 あはは、そうですね、わかるわけないですよね。王子様からの信頼がないと。


「信頼とかじゃなくてな!?」

「国家機密ですもんねー」

 わかってますよ、そんなこと。からかってるにきまってるじゃないですか。


「海軍は付き合わないでしょう、海の脅威に対応するための軍ですし」

「まあ、そうですよね。外洋から攻め込む理由はありませんし」

 海の脅威と言うと、クラーケンとかカリュブディスとかネレイスとかでしょうか。…ネレイス辺り、勇者対策になりそうですね?


「いや他の船乗りが気の毒じゃからやめてやってくれぃ」

「やりませんよ、別に」

 それに、言うこと聞かせられるわけじゃないですからね。あの子達も好き勝手に生きてますし。


「まあ、大丈夫だとは思いたいんですが、何分にも前例がありますのでね」

「前例? 何かありましたっけ?」

「遊撃隊が略奪紛いのことをやったことがあるんですよ。別に痛くもかゆくもありませんけれど、ねぇ?」

「ああ、泥棒を見逃すわけには行きませんよねぇ」

 別に法治国家というわけじゃありませんが、無法国家でもありません。きっちり制裁を加えないと、です。


「で、魔王様。そろそろお戻りになりません?」

「いえいえ、わたしは元魔王。復権なんてありえませんよ?」

 ほほほほほほと笑ってみせる。冗談じゃないです、戻りませんよ。指示なんてどこからでも出せま……。


「あああああああなんでお前がここにいるぅぅぅぅぅ!?」

「今更でしょうそれ!?」

 ふ。

 間諜になにか、移動術系のものを持たせてあったんだろうとかは想像つきますけれど、そうではなくてね?


「城を空けてどうするんです、今は貴方が魔王でしょう!?」

「暫定魔王なんぞ玉座にいる必要はありません!」

 う、そうでした。ある程度動けないと厳しいから、そうやって術式組んで…いやいやそれにしたって、おかしいでしょう。国外とか出られるようにはしてませんよ?


「三年もあったら組み替えますよ、そんなもの」

「人の懇親の作をそんな一言で」

「禄でもないことにだけは心血注ぎますよね、あなた」

「必要だったのですよ、わたしには」

 遠い目をしてしまうほど、当時のわたしは荒んでおりました。ええ、だから彼女も放置しておいてくれたんですよね。出来ればあと百年くらい、放置して欲しかったです。


「認定勇者が出なければもう少しは放置できたんですけどね?」

 ああああああああああそこにもどらないでぇぇぇぇ!?


「まあ、とりあえずの方針は決まりましたので、いったん国に戻ろうと思いますが…あちらのお嬢さんは、どうします?」

 え?

 …あ、お姉さま。ごめんなさい、騒がしかったですね。


「どうします、お嬢さん。このままだと巻き込まれますよ?」

 え、どうしてお姉さまに直接聞いちゃうの?

 ていうか事情説明とかしないのですか?


「けっこう前からそこにいらっしゃいましたよ。あと、貴女が不甲斐ないからですが?」

 ぐふ。


「貴女さえよろしければ、私の客人として招待します。申し訳ない、うちの馬鹿魔王が迷惑をおかけして」

 いやあの、どちらかというとわたしも勇者の被害者なんですけども。

 涼しい顔で流されてしまいました。ああ、…役者が違いますね。くすん。 


「故郷へお返しすることも出来ますが、今は止めたほうがいいでしょう。まっさきに勇者の手がまわったそうですから」

 そうなの、とお爺様を見ると苦笑しつつ頷かれました。そうですか、なかなかのご執心ですね勇者くん。昨日の今日で。


「とりあえず、勇者を退治しないと……」

 え。お姉さま、今なんて仰いました?

 目が据わっているのはお疲れだからですよね?


「ええ、退治しないと、安心できませんね」

 うむうむと鷹揚に頷く宰相殿。…え、あれ? 意気投合…して、ます?


「ということですので魔王さま。勇者を退治してきてくださいね」

「よろしくお願いします、チェルちゃん」

 何がどうしてそうなるんですかぁぁぁぁ!?


「いいじゃないですか、ほら、そこで”賢者が仲間になりたそうに貴女を見ています”よ?」

 いや知ってますよそれさっきからずっと熱い視線感じてますし気づかないようにしてましたものをこの男余計なことを!


「ねえちょっと待って、盟約術で逆らえないとかあの設定、なに!?」

 そんなもの、と鼻で笑われました。鼻で!


「私との盟約が先ですから、無効ですよ。いちおう、効果が発揮されるようにはしてありますけれど、向こうの命令に逆らったことがばれなければ問題ありません」

 こ、い、つ、は。

 ……うん、やはり生涯を国のためにささげていただきたいですね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る