クズの聖戦の評価

 本日、評価開始四日目。

 トップバッターは坂口航さん作「クズの聖戦」です。


 内容は魔導書を手に入れた少年が異世界に行くというもの。

 世界観はよくある異世界モノですから、とっつきやすいと思います。

 しかし、最初の始まりから異世界に行くまでのテンポが少し悪いかなぁとも思います。

 私個人としては、主人公がどういうことを考えている人間なのかを書いている部分なので仕方ないとは思いますが、世間一般的にウケが良いかで言われれば怪しいのかなと思ったり。

 余談ですが、私は時空転移の失敗のところ、滅茶苦茶好きですw


 この主人公がどういう人間で、どういう気持ちを抱いて異世界に行くかというのは非常に難しい描写です。

 あまりダラダラ書きすぎれば序盤で読み手が離れますし、だからと言って疎かにすればストーリー全体の根幹にダメージを与えかねません。

 なので、多くの場合が省略されます。


・デスマーチから始まる異世界狂想曲→寝落ちから異世界

・賢者の弟子を名乗る賢者→寝落ちから気がついたら三十年経過したゲーム世界

・ありふれた職業で世界最強→突然、召喚陣

・治癒魔法の間違った使い方→突然、召喚陣

・異世界魔法は遅れてる!→突然、召喚陣


 などなど、思いつくものを幾つか挙げましたが、転移の場合ってそこの部分を書くのが難しいので省略する傾向にあります。

 「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」に関しては招待状からの異世界転移であるため、ちょっとした話から持っていきやすくなっています。

 本に挟まってた招待状。届いた招待状。猫が持ってきた招待状などなど。

 かという私も省略派で、「才女の異世界開拓記」は寝て起きたら異世界に召喚されてた。「RelicCode」では召喚された日を丸々省略。召喚された日から一年後をスタート地点に選んでいます。

 

 参考になりそうな作品例としてアニメ「ノーゲーム・ノーライフ」(小説版は読んでないので知りません)を挙げておきます。

 初手でゲーム世界で無双する空白主人公たち→挑戦状→勝利→景品としてゲームで全てを決める異世界へ転移。と、主人公たちの人となりから異世界に転移するまでを冒頭で書いたタイプの作品です。

 流れとしては大差ないかと思います。


 これを参考にしつつ、冒頭の男に会ってから消えるまでを見ていきます。

 最初は主人公が放課後をどう過ごすか考えるシーン。ちょっと長い。

 というのも、一時間考えている割に考えている内容が薄い。その程度なら、多く見積もっても十分程度で考えられると思うんですよね。

 「だから、こうして小説冒頭の語り風に考えて気分を盛り上げようとしているのだが全く効果はないようだ」という言葉に合わせて、冒頭は映画でよく見る体験記みたいな始まり方をしている訳ですが、それが原因で違和感を感じるようにも思います。

 語り風から一人称に移るシーンチェンジがない――訳ではないのですが、「普通に考えよう」と切り替えると、つまり最初の部分は不要だったってことだよね?って思ってしまいます。

 漫画だとたまに見かける気もしますが、文でやるのは悪手かと。よほど文章力がないと面白く書けないからです。

 例として「ハヤテのごとく!」を挙げておきます。

 伊澄にスマートフォンの使い方を教える回があるのですが、伊澄母の呼んできた人物は表情が「( ゚д゚)」の人。

 この時に「何でこの人を連れてきたのか?」と聞かれて、「顔が『( ゚д゚)』と似てるから」なんて言うシーンです。

 これは、文で書けなくもないと思いますが、絵だからこそ笑えるシーンなのではと思います。

 あ、なるほどそういうことか!って気づけますからね。登場した瞬間から絵が伏線――速攻回収なので、伏線ってほどではありませんが――に成ってるわけです。


 次に、男との会話に関して。

 魔導書の説明はいらなかったと思います。

 「何だこれ?」からの「中を見てごらん」と続き、「中身、日本語じゃん!」と驚いてからの「で、結局なんなの?」って見たら男が居なくなってたみたいな感じにすればすんなり家で本と格闘するシーンに入れるのかなぁと思います。

 ライトノベルでは、どこを重要視して、どこをコンパクトに削っていくかというのは重要なことだと思います。

 冒頭や、世界観設定というのは徐々に明かせば良いものなので、そのストーリー群において必要最低限なものを可能な限りコンパクトに書くのがベストではないかと。

 

 次に、異世界に行ってからリゼに出会うまでが展開的に早すぎるように思います。

 というのも、牢屋に入れられてから出るまでに何もなさ過ぎる。

 極端な例として、「伝説の勇者の伝説」を挙げておきます。

 主人公は色々あって牢屋に閉じ込められるシーンがあるわけですが、その間、見張りのおっちゃんと仲良くなったり、調べ物をして論文書いたりとかして過ごすんですよね。

 牢屋には牢屋なりのストーリーを展開させられる要素があります。要素があるものを使い捨ててしまうとどうしても、内容が薄いように、あるいは展開が早すぎるように見えてしまうわけです。

 この場合は、取り囲まれた後、機転を利かせて逃げ、逃走中にリゼと遭遇するというのが自然になるのかなぁと思いました。

 よくあるじゃないですか。逃げてると遠目に見ていた人が助けてくれるってやつ。あんな感じです。


 総評としては、転移に至るまでを書いている割に活かせていない気がするが、リゼと会ってからのストーリー展開は読みやすい。ただし、推敲は必要といった感じでしょうか?

 今のままでも問題ないかとは思いますが、「……」の使用頻度が多いように見えます。「――」を組み合わせるなどして見た目も調えると、尚の事良いのではないかと思います。

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