82:最後はやっぱり、お宝だよなって話


「クラフト君! お宝タイムだよ!」


 リーファンが目をきらきらと輝かせながら走り寄ってきた。

 ダンジョンと言えばお宝だろう。

 しかも今回は自然洞窟型の異空間ダンジョンだ。鉱石関係のお宝がある可能性が高い。リーファンの興奮は当然の事といえよう。


「おう! リーファンは鉱石探しの秘密兵器、ダウジングティアドロップを使って探してみてくれ!」

「うん!」


 リーファンは早速ティアドロップを取り出すと、ダウジングをはじめた。鉱石の知識が豊富な彼女が扱うと、よりレア度の高い鉱石を見つける確率が高くなる。

 彼女を横目にレイドックがソラルに手招きした。


「ソラルもこの部屋の探索を頼む」

「わかったわ」


 レンジャーであるソラルが、ダンジョンお約束の隠し部屋を探し始める。この手の魔物が沢山出てくる罠の部屋には、お宝が隠されていることが多い。


 カミーユ、マリリン、ベップ、シュルルがリザードマンの治療や相手をし、残りのメンバーが魔石や素材などを集めて回る。

 俺も手伝うか。

 近くの魔物に短剣を突き立てると、レイドックが寄ってきた。


「クラフトは少し休め」

「だが……」

「お前はやることが多すぎるんだ。雑用くらい任せとけよ」

「そういうお前だってリーダーなんだから、やることだらけだろうに」

「剣士と魔術師を一緒にするなっての。鍛え方が違うぜ」

「魔術師じゃねーけどな」

「茶化すなよ。錬金術師の戦い方はずいぶん面白いな」


 トリモチや回復アイテムの事を言っているのだろう。


「ジャビール先生は研究メインで戦闘はからっきしらしいからな。戦い方は試行錯誤するしかないんだ」

「レアな紋章ってのも苦労するんだな」

「なに。楽しい苦労ってやつさ」

「ならいいんだ。とにかくお前は少し休め」

「……わかった。そうさせてもらう」


 どこか適当に座って休息するつもりだったが、それより先にソラルの声が響いた。


「隠し扉を見つけたわ!」

「なに!?」

「やはりあったか」


 俺は座る間もなく、ソラルの所に駆け寄る。もちろん全員集まってきた。

 リザードマンたちはすでにシュルルに説明され、俺たちが戦利品を持って行くことを知っているので、少し遠巻きに、興味深そうに様子をうかがっている。


「あんな所に隠し扉があったのか」

「人間はずいぶん簡単に見つけるんだな」

「俺たちだけだったら見落としてたな」

「戦闘だけじゃなく、調査まで得意とは、凄い連中だ。人間は全てこれほどやるのか?」

「シュルルの説明だと、彼らが特別らしいが」

「恐ろしくもあるが、頼もしい奴らだ」

「ああ。命を救ってもらった事を別にしても、仲良くするべきだろう」


 人間との接触を禁じていたリザードマンたちだが、どうやらある程度よい印象を与えられたようだ。

 このまま良好な関係を築けるといいな。

 彼らの会話を聞きつつ、ソラルの様子をうかがう。


「……うん。罠はなさそう」

「この部屋の魔物が罠だからな。扉にまで仕掛けられてたら陰険すぎる」


 レイドックに向かって、ソラルが肩をすくめた。


「たまにあるけどね……。開いたわ」

「よし、俺とカミーユが先頭で入るぞ」


 戦闘力の高いレイドックと、動きの速い接近職のカミーユを即座に指名できるあたり、さすが慣れてる。

 今回のように二~三パーティーで動く時、ついつい自分のパーティーメンバーばかりを使ってしまうものだが、すでに仲間の能力を充分に理解しているのだ。やはりレイドックは誰よりも優れたリーダーになる素質があるのだろう。


 二人が隠し扉の奥に踏み入り、中を確認。


「……大丈夫そうだな。ソラル頼む」

「わかったわ」


 続いてソラルが中に入り、今度はレンジャーの視線から罠をチェック。こういう隠し部屋は危ないのだ。


「罠はないみたいね」


 俺も顔を覗かせると、ちょっと広めの会議室を思わせる、中途半端な広さの部屋だった。

 今までの自然洞窟風とは大きく異なり、人の手が入った建築物となっている。ダンジョンではよくあることだ。そして大半の場合、そこが終点で一番価値のあるお宝があるものだ。


「しっかし、このダンジョンってのはなんなんかね? ここみたいに異界化したダンジョンは、必ずといっていいほどお宝が隠されてるよな」


 石を組んでしっかりと作られた壁に、豪華なタンスや戸棚、重厚な机が並び、一見誰かの書斎か研究室に見える部屋を見渡して呟くと、ジタローが手近な引き出しを開ける。


「そもそもダンジョンってなぁー、誰が作ったんでやすかね?」

「定説だと、大昔の魔法時代の遺跡って事になるんだが、作られた目的はさっぱりだよな」


 俺とジタローの会話に興味を持ったのか、レイドックが参加してくる。


「俺が聞いた話だと、昔の金庫ってのだな。大事なものを魔物に守らせてるっていう」

「冒険者なら一度は耳にするやつだな。定説だけど……少し気になるんだよな」

「なにがだ?」

「いや、昔の魔法がどれだけ凄いかわからんが、これだけのダンジョンを作り出す労力と、そこで見つかるお宝の価値が見合ってないような気がするんだよな」

「当時の価値観が違っただけじゃないか?」


 俺はうーんと首を捻る。


「完全攻略されていない巨大ダンジョンはともかく、時々見つかる小規模、中規模のダンジョンで見つかるアイテム。……魔法の剣とか杖とか若返り薬とか、当時それだけの価値があったのかなと」

「言われてみると……ダンジョンを作れるほど魔法が発達していて、それらの品が守るべき宝ってのは、たしかに違和感があるな」

「だろ?」

「お二人とも難しく考えすぎっすよ! おいらたちに大事なのは、お宝があるかどうでがしょう!?」


 すぱーんと言い切るジタローに、俺とレイドックが毒気を抜かれ笑みが出る。

 うん。そうだな。大事なのは今あるお宝だ!


「きゃーーーーーー! あった! あったよクラフト君!」

「どうしたリーファン!」

「これ! これ!」


 リーファンが目から星屑を飛ばしまくる勢いで瞳を輝かせて探し出したのは、金属のインゴットだった。

 しかも三種類。

 一つはわかる。ミスリルだ。ここからでも魔力がわかるほど高品質なのは珍しい。

 もう一つはおそらく……。


「もしかしてアダマンタイトか?」

「うんそうだよ! 精製済みの高品質アダマンタイトなんて初めてだよ!」


 リーファンは片手でインゴットを持っているが、とてつもなく重いらしいので間違って受け取らないようにしないとな。


「姉さん! ちっと触らせてくだせぃよ! ……ほぎゃあああああああ!?」


 ひょいっとジタローが、リーファンからアダマンタイトをひったくるように受け取ろうとしたが、リーファンの手を離れた瞬間、アダマンタイトのインゴットはその質量に従って地面に落下。

 ジタローはしっかりとインゴットの左右を掴んでいたのだが、それが裏目になって、上半身がポキリとインゴットの落下に引っ張られる形となり、地面とインゴットに指を挟まれたのだ

 うん。あれは痛い。


「うもぎゃあああああ!? 折れた!? 折れちまった!?」

「ジタローさんー。治癒魔法しますよー」


 キャスパー三姉妹の一人マリリンがおっとりと杖を構える。


「頼んます! マリリンさん!」


 ジタローが、ばびゅーんとマリリンの前にしゃがみ込み両手を差し出す。なんかエロ犬が飼い主にまとわりついてるようにしか見えんぞ。

 今のジタローなら、いくらアダマンタイトとはいえ、持つことは可能だったのだろうが、意識してなければこうなるのだろう。

 あれだ、からっぽの鍋を渡されたと思ったら、実は魔石が詰まった鍋で、受け取った瞬間取り落としそうになる感じ。


 え?

 そんな経験はないって?

 そうか……俺は冒険者ギルドや生産ギルドで何度かあるんだよな。


「それでリーファン。三つめのそれは……」


 そう、インゴットは三種類あるのだ。

 リーファンが息を飲んでから答える。


「うん。これ……オリハルコンだよ」


 伝説の魔法金属キターーーー!!!!!!!


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