83:旅は楽しいけど、故郷もいいよねって話


「おおおおお! それが! 伝説の! オリハルコン!」


 あまりに興奮して、つい叫んでしまったが、テンションが上がったのは俺だけではなかったようだ。


「なんだって!? 本当かリーファン!」

「オリハルコンが使われている魔導具を師匠が持っていましたが、小さなオリハルコンが嵌められていただけで国宝級と言っていましたから……これだけのインゴットだとどれだけの価値があるんでしょうね?」

「よく考えると、オレファルコンって自己主張強い名前っすね」


 レイドックは俺と同じく興奮し、エヴァは逆に青ざめていた。それだけこの価値をわかっているのだろう。

 一人だけ名前を覚え間違えている奴がいたようだが無視だな。


「リーファンの姉さん、このオレファルコンってそんなに珍しい金属なんですかい?」

「うん。凄く貴重な金属だよ。今まで昔の魔導具……アーティファクト級の魔導具や装飾品に使われたのしか見つかってないんだよ。たぶんインゴットで見つかったのは初めてなんじゃないかな?」

「凄いじゃないですかい!!」

「だから凄いんだってば!」

「漫才はそのくらいにして、俺にも鑑定させてくれ!」

「うん! もちろんだよ!」


 リーファンからオリハルコンのインゴットを受け取る。ずっしりと重さを感じる。鉄と同じくらいだろうか?


「よし……〝鑑定〟」


 鑑定の魔法を発動した瞬間、黄昏の錬金術師の紋章から、一気に知識が流れ込んでくる。

 予想通り、今まで知らなかった知識が一気に脳に流れ込んできた。いわゆる「紋章の囁き」だ。あまりに大量の知識を一度に得ると、しばらく動けなくなることもある。

 今回はふらつくほどではないが、久々の感覚だ。


「クラフト君?」

「……いや、なんでもない」


 素早くリーファンと視線を交わす。恐らくリーファンは気がついたはずだ。俺にオリハルコンに関する情報が、紋章の囁きから流れてきたことを。

 だが彼女は詳細を聞いてこない。お互い無言で頷き、囁きで得た知識は公開しないことを決める。

 安易に広げていい知識とは思えなかったからだ。


 そりゃあそうだろう。

 伝説にして謎の金属オリハルコンが、まさかミスリル・・・・アダマンタイト・・・・・・・合金・・だったなんて、簡単に発表出来るものではない。

 もちろんそれだけではなく、オリハルコンが持つ特殊な能力に関しても、国家機密級の可能性があった。


 こいつぁ、カイルとの相談案件だな。

 恐らくリーファンも、オリハルコンを触り、鑑定したことで、加工するための知識は得たと思うが、何も言わないところをみると、同じ考えなのだろう。


「レイドック。念のため確認しておくぞ。今回カイルから依頼された調査の旅で得た金属は、カイルに提出で合ってるな?」

「ああ、間違いない」

「みんな、すまないがオリハルコンを手に入れたことは他言無用で頼む」

「リザードマンの村長には俺から伝えよう」

「頼むレイドック」


 幸い隠し部屋に入っているのは俺たちだけだ。

 あ、いや、もう一人いたわ。

 なぜか俺のすぐ背後にいたシュルルに振り返る。


「すまないシュルル、村長にはちゃんと伝えるから、他のリザードマンたちには……」

「うん! 二人だけの秘密だね!」


 何をどうやっても二人だけの秘密ではないが、身体全体からハートマークを飛ばしているシュルルに言い直す意味はないだろう。

 なんでこんなに好かれたんだろ?

 悪い気はしないけど、ここまでグイグイこられると、恋愛初心者の俺にはきついんだ!

 あああああ!

 さりげなく背中にくっつかないで!

 あたってる! 当たってるから!


 俺は慌ててジタローに縋るようにシュルルから逃げ出した。


「ジタロー! 他に何か見つかったか!?」


 するとジタローから冷めた視線が向けられる。


(クラフトさんー、なんで逃げるんですかい? おっぱい好きでやしょ?)

(もちろん大好きだ! だが、あそこまで肉食系だと引くだろ!?)

(もげちまえばいいんすよ……!)


 すまんレイドック。お前の事をただただ羨ましいと思っていたが、自分の身に降りかかるとこんなにどうしていいのかわからなくなるんだな!


 エヴァとソラルに挟まれていたレイドックが、それ見た事かという視線を投げて来やがった。

 くっそ。これからは、からかい難いじゃねーか!


「あー、部屋の探索は終わったな? お宝も手に入ったし、村に戻るぞ!」


 レイドックの号令で、俺たちはリザードマンの村に戻る事になった。

 結果だけを見れば、リザードマンを救い、お宝を手に入れたのだから、大成功だろう。


「レイドックしゃまぁ……」

「クラフト様ぁ……」


 うん。大成功だよな?


「二人とも、犬のうんこ踏んじまえばいいんすよ!」


 しばらくジタローの呪詛が漏れ出ていたが、村に着く前にカミーユに話し掛けていたあたり、逞しいというか、節操がないというか。


 ◆


 村に戻ると、リザードマンたちが盛大に出迎えてくれた。

 ダンジョンで合流した戦士たちは、村の惨状に驚いてはいたが、いまなお処理が進む巨大カエルの死体の数を見て、後悔しつつも安堵の様子を見せてくれる。

 すると戦士の一人が改めて俺の肩を叩く。


「俺たちがいないあいだ、村を守ってくれたとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。改めて感謝する」


 俺だけでなく、仲間全てに礼に回る姿を見て、助けてよかったと笑みがこぼれた。

 シュルルに頼んで、村長に面会を頼むと、離れの部屋を用意してくれた。

 リザードマンは村長のシャルレと息子のジュララ。それにシュルルだけだ。

 俺とレイドックが代表して、オリハルコンの報告をする。


「ふむ……希少な金属なのだな。私たちは鉄を加工するのが精一杯だからな。お前たちが持っていくことで礼になるのなら構わない。他の住人には貴重な金属を渡したことだけ伝えよう」


 村長ではなくジュララが相手をしてくれた。村長は横で頷いているだけだ。

 リザードマンの政治システムはわからないが、どうやら村長の権限の大半はすでにジュララが持っているようだ。


「そうしてもらえると助かる。それで、あんたたちはこれからどうするんだ? ここに残るのか? 先に話していたように、ゴールデンドーンに来るなら案内するし、歓迎する」


 すると今度は村長が答える。


「うむ。今夜戻ってきた戦士たちを交えて最後の確認をするが、移住でほぼ確定じゃな。色々と世話になるつもりじゃ」

「やったぁ!」

「シュルル! 言葉遣い! それ以前に客人の前で失礼だ!」

「す、すみません兄さん」

「まったく……すまなかった。とにかく世話になる。準備が出来次第、出立するつもりだ。案内は頼んだぞ」

「わかった。俺たちも旅の準備をしておく。長旅になるから覚悟しておいてくれよ」

「覚悟しておる」

「よし、クラフトはスタミナポーションだけでも作って置いてくれ」

「了解だ」


 表情を引き締める村長とジュララとは対照的に、シュルルはめっちゃいい笑顔だった。

 離れを出ると、さっそくシュルルが飛びついてくる。


「クラフト様! これからずっと一緒にいられるね!」

「あ、ああ。でも恐らくだが、リザードマンが住む場所と、俺らの住む場所はかなり離れることになるぞ」

「私はクラフト様の所に住みます!」

「お、おう」


 そ、そうか。ゴールデンドーンに住むつもりなのか。

 沼はないけど川沿いだからなんとかなるかな?

 リザードマンが住むことが可能な実験住宅かなんか作って、そこに住んでもらうのが良いかもしれない。これもカイルに相談だな。


「細かい話は現地についてからだが、俺たちは歓迎するよ」

「うん!」


 ああああ! 首に飛びつかないで! ほっぺに……ほっぺにあたるの!

 っていうか、顔全体が包まれちゃうぅぅぅ!


「……クラフト君」

「り、リーファン! そ、そうだ! ポーション作りを手伝ってくれよ!」

「私、今からテント作りなんだ」


 なぜかつーんとそっぽを向いてしまうリーファン。

 なんか怒ってらっしゃる!?

 ふと、腰に下げたウサギの人形(怖)が気になった。

 確信はないのだが、シュルルと一緒にいるところを、マイナに見られてはいけないような気がする。


 うん。帰ったら気をつけよう。


 予定していた六〜七割ほどの土地しか調査を終えていないが、俺たちはリザードマンたちを引き連れ、ゴールデンドーンへの帰路へとつく。

 年寄りや子供の移動速度を懸念していたのだが、スタミナポーションで元気いっぱいの戦士たちが神輿のような担いで運ぶ台を作って、足の遅いメンバーを運んでくれたおかげで、当初予定していた日程を大幅に短縮して戻る事が出来た。


 そして、ついにゴールデンドーンに到着すると、リザードマンたちは口をあんぐりと開け、絶句した。

 広い平野に、山を思わせる巨大な城壁が連なっているのだ。そりゃあ驚くだろう。

 一部の高層住宅はその城壁より高く、ところどころ頭を覗かせていた。

 どうやら建設は順調で、さらに発展しているようだ。


「な……なんなんだあの巨大な石の砦は」

「お、俺たちは恐ろしいところに連れてこられたんじゃないのか?」


 大丈夫。カイルは優しい奴だからね!


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