冒険者をクビになったので、錬金術師として出直します! 〜辺境開拓? よし、俺に任せとけ!
佐々木さざめき
第一章【黄昏の夜明け】
1:後生大事にしてたもんが、足枷だったって話
「クラフト。お前、クビ」
「えええええ!」
俺はこうして、またもやパーティーをクビになった。
一六歳の誕生日から冒険者を始めて、ちょうど四年目の晴れた日だった。
「ほんとお前使えなかったよ」
「悪いとは思うんだけど、本当に魔術師なの?」
「まさかと思うが、その左手に刻まれた魔術師の紋章、偽物なんじゃねぇのか?」
「ぐ……」
パーティーリーダーの戦士マルボロの一言から、紅一点のレンジャー、マリエッタも続く。
他のメンバーも似たような反応だった。
マルボロはむかつくが優秀な奴だ。俺の実力を考えたら文句があるのはわかるが、言い過ぎだろうとも思う。
「なんで紋章持ちなのに、初級魔法しか使えないんだよ。しかもその威力は信じられないほど弱いしよ!」
「流石にゴブリン一匹倒せる魔法がない魔術師てのはねぇ」
「ぐぐぐぐ……」
彼らが言っていることは正しい。
正論だから反論出来ないこの身が恨めしい!
「まぁそんなわけで諦めてくれ」
「……わかった。今までありがとう」
「こう言っちゃ悪いけどよ、クラフトあんた、冒険者の才能ねーよ」
「魔力は滅茶苦茶あるのに、魔法がほとんど使えない魔術師とか……」
俺がその場を去った後も続く悪態を背中に受けながら、俺は冒険者ギルドの受付にとぼとぼと歩いて行った。
「
「ああ、まただ」
どんよりとした空気で悟ったのか、受付嬢がげんなりとした顔を向けてきた。
「とても言い難いのですが、正直、冒険者は向いてないと思いますよ?」
「頑張ってきたんだけどな」
「それは知ってます。ですが、余りにも魔法が弱すぎですよ」
「……ああ」
「これからどうしますか? 新しいパーティーを探しますか?」
今まで数えられないくらいのパーティーに参加してきたが、どれも長続きしたことは無かった。
そっと左手の甲に刻まれた紋章を撫でる。
魔術師の紋章。
成人の儀という紋章を授かる日、人よりも高い魔力から、一も二も無く魔術師の紋章を刻むことに悩むことは無かった。
儀式を担当してくれた人も、将来良い魔術師になろうだとうと太鼓判を押してくれたこともあった。
だが……。
だが……。
なぜかどの攻撃魔法も、一般の魔術師と比べて、圧倒的に威力が弱かったのだ。
魔力だけは自信があったので、連発できた事から、駆け出し冒険者の頃は問題なかった。
しかも、覚えられたのは極々初歩の魔法のみ。
紋章を持つ者は、その成長に応じて新たな魔法や技を授かるというのに……。
こうして俺は、パーティーに入っては、役立たずとして追い出される事を繰り返したのだ。
「クラフトさん、実はですね、生産ギルドからちょっと頼まれごとをされていまして」
「生産ギルド? どんな依頼なんだ?」
「依頼とはちょっと違うんです」
「?」
「最近、ベイルロード辺境伯の領地で、新しく開拓村を作ることになったんです。そこで長期滞在出来る方を生産ギルドが探してまして」
「開拓?」
「はい。それも、出来れば生産ギルドに所属している人間が望ましいと」
「それって、もしかして」
「はい。出来れば少々で良いので戦いが出来る方を、生産ギルドに送って欲しいと言われていまして」
「つまり、冒険者ギルドを辞めて、生産ギルドに所属しろってことか?」
「そうなります」
つまり、冒険者ギルドからしても、生産ギルドに送って痛くない人材だと、認識されているのだな……。
天涯孤独の俺が、冒険者をやれないのであれば、即急に次の職を見つけなくてはならない。
「……わかった。その話、受ける」
「え!?」
「詳細を教えてくれ」
「わっ! わかりました! 紹介料もありますから!」
この流れで引き受けるとは思わなかったのだろう、受付嬢は慌てて書類をひっくり返した。
こうして。
様々な手続きのあと、俺は冒険者を辞めることになった。
◆
もしあのまま冒険者にこだわっていたら、一生ぐだぐだと生きることになっていただろう。これは転機だったのだ。折角だから、田舎でのんびり暮らそう。
「よし! 気分一新! これから俺は生産ギルドのクラフトとして生きていくんだ!」
いまさらの転職だが、頑張っていこう!
そんなことを考えていると、生産ギルドに到着していた。
初めて来たが、思ったより大きな建物で、随分と賑わっているようだった。
「おい! 荷馬車の準備はどうなってる!?」
「腐らない物から積み込みを始めてます!」
「同行者はまだ増えるかもしれないからな! 物資には余裕を持たせろよ!」
「二割くらいでいいですか?」
「アホ! 不測の事態を考えろ! 三割はいる!」
「予算はどうなってます?」
「辺境伯に請求する!」
「わかりました!」
生産ギルドなんて言うから、もっとこう、職人がむっつり顔でたむろしているのかと思ったが、そういうわけでは無さそうだった。
「ん? あんた! そこで何してる!?」
「あ、すまん。受付の人間はいるか?」
「何の受付だ? 職人登録か? 商会の仕入れか?」
「いや、冒険者ギルドの紹介でやってきた」
「ん? おお! もしかして、開拓村の!?」
「そう聞いてる」
「いやあ! それは助かる! こっちに! おいお前ら! ちょっと席を外すがサボるなよ!」
偉そうに指示を飛ばしている、ごついおっさんがカウンターに陣取って、席を勧めてくれた。
「よく来た! 俺は生産ギルドのギルド長だ」
「クラフト・ウォーケンだ」
「ん、クラフト? 生産ギルドでクラフトとは縁起が良い名だな! がはは!」
「ははは……」
笑うしかないだろ、こんなん。
「冒険者ギルドで話は大体聞いてきたんだが、詳しい話を聞いても良いか?」
「もちろんだ。と言っても話は簡単で、新しく作る開拓村に、生産ギルドから二人ほど送るって話でな、一人は決まってるんだが、どうしてももう一人決まらなくてな」
「なるほど。だがどうして元冒険者を指名したんだ?」
「そりゃ簡単だ。ど辺境だからな。どんな危険があるかわからん。少しでも戦える奴が欲しかったのよ」
「普通に冒険者を雇うのではダメなのか?」
「開拓村までの道中は冒険者を雇うが、いつまでも現地にいてもらう訳にゃいかんだろう?」
「まあ、そうだな」
冒険者として何年も護衛の仕事を振られたら、普通に断るだろう。
「一応、開拓村の責任者が現地で合流して、護衛の兵を出してもらえることになってるが……まぁ信用はしてない」
「そんなもんだろうな」
領主からすれば、開拓村なんて成功すればよし。失敗したらそのまま放置だろう。
派兵の約束なんて、あって無きがごとしだ。
「なもんで、モンスターと戦える人間を、生産ギルドから送りたかったんだ。そんじゃ手続きしちまおうか」
「ああ頼む」
ギルドからの紹介状のおかげで、手続きはさくさくと進む。
「へぇあんた魔術師なのか」
「はは……四年やって、初級魔法の一部しか覚えられなかったへっぽこだけどな」
「なんだって?」
ギルド長は、生産ギルドの代表に相応しい隆起した筋肉をピクリと震わせた。
「それは……ちゃんと紋章適正を見てもらったのか?」
「え? いや、生まれつき、人より圧倒的に魔力が高かったんだよ、だから特に調べたりはしなかった」
そういえば、適性を調べることも出来るんだったよな。
だけれど、実はあまり一般的では無い。
理由は簡単で、普通、親の職業を継ぐのが当たり前だから、大抵の場合、才能云々よりも、親と同じ紋章を刻むものだ。
そして大半の場合はそれが最も適正だったりする。
騎士の家の跡取りに、もし鍛冶の適性があったとして、鍛冶の紋章を得ようとするだろうか?
そんなわけが無い。
少々の適性が足りずとも、騎士の紋章を刻み鍛えればいい。努力である程度は補えるのだから。
それに相性の悪い紋章は、刻むことが出来ないらしく、その時は別の物を選ぶらしい。
「ふーむ。今ちょうど、紋章官がいるんだ。折角だから調べてみないか?」
「あれは結構金が必要だろ?」
「今回は俺が持つ」
「なんでそこまで?」
「可能性は低いが、もしかしたら生産関連に才能があるかもしれないじゃないか」
「ああ、なるほど」
確かに、あこがれの冒険者になること、無駄に高い魔力から、魔術師以外の適性を考えた事も無かった。
なるほど、大工や鍛冶の才能などあれば、この先生産ギルドで生きていくのにはとても有用だろう。
もう魔術師の紋章に未練なんてないしな。
「わかった。ではお言葉に甘えさせてもらうよ」
「よしわかった。……紋章官殿! お願いします!」
ギルド長が呼ぶと、奥で何かの作業をしていた魔術師の紋章を持った、年配の紋章官がやってきた。
ちなみに、貴族などの紋章を覚える紋章官でもある。ほんとどうでもいい。
「では、見てしんぜよう。”紋章適正判断”」
俺の左手の紋章がわずかに輝き、震えた。
「な……なんだと!?」
「えっと、何かわかりましたか?」
なぜか驚愕に目を見開く紋章官に、恐る恐る声を掛けた。
え? 何?
「ばっ! 馬鹿な! こんなことがありうるのか!?」
俺の紋章を凝視する紋章官。
もの凄く不安になるんですが!
「な、何か問題でも?」
「い、いや、ちょっと信じられないのだが……貴殿に最も
「は?」
なぜ、紋章官が俺の紋章をガン見しているのか、その理由が判明した。
「貴殿、何か魔法が使えるのかね?」
「あ、ああ。四属性の初歩の初歩くらいだけど」
「信じられん! こ! これほど相性の悪い……いや! 最悪……それどころか下手をすれば命にすら関わるほど、徹底的に合っていない紋章の力を使っていただと!?」
「え!? 生命に影響!?」
「うむ。あまり知られていないが、余りにも不適合な紋章の場合起こりうる。もっともまずあり得ないのだが……」
「ちょいと先生よ。つーことはこのクラフトはよ、そんなハンデを背負ったまま四年も生きてきたのかい?」
「うむ。信じられんが、そうなのだろう。紋章官としては今すぐに紋章を書き換える事をお勧めする」
「あまり相性の良くない紋章は、そもそも持てないって聞いてたんだが」
「一般的にはそうだな。だが、ごくごく稀に刻まれてしまうこともあるのだよ」
なんてこったい……。
俺はそんな紋章をずっと後生大事に抱えて生きてきたのか。
「本来、紋章の書き換えには手続きが必要だが、生命にも関わる非常事態だ。望むのなら私の権限で今すぐにでも書き換えよう」
「それはありがたいのだが、だとしたら俺の適正紋章ってのは……?」
「すまない。その話をしていなかったな。こちらも信じられん話なのだが」
紋章官が杖を握りしめ、こちらを凝視する。
「とてつもない……それはもう、尋常では無い力を秘めた紋章が一つ、貴殿に最も相応しい、最適な紋が存在しておる」
「そ、それは?」
思わず、ごくりとツバを飲み込んでしまう。
わざとなのか、天然なのか、紋章官はたっぷりとタメを作ったあと、ゆっくりと吐き出した。
「錬金術師。……それも神のごとき力を持った、黄昏の錬金術師だ」
え、なにそれ凄そう。
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