8話 君
「そう、私は1度死んだよ。死んじゃった。」
視線を落とす。
思い出したくもない過去を、また思い出すことになるなんて、ほんと残酷。
チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる。この国がまだ、平和だと言うかのように。
今居る場所から離れ、羊の正面に座る。
羊は体制を変えないまま、顔だけをこちらに向けた。
「死んだのに、じゃあ何で今ここに居るの?幽霊?」
「そんな訳ないでしょ。幽霊だったら、わざわざ市場で買い物しない。」
ふぅ...と一息付き、伸びをする。
「正直、貴方が覚えてるとは思ってなかったから熊猫種族は絶滅と言う風にして、私が生きていることは隠蔽したかったけど...。」
台所にある包丁を、念力を使い自分の近くまで持っていき、クルクルと手で回しながら
「どうする?私を通報する?」
そう言って、包丁を手に取り机に刺す。
一瞬目を丸くした羊は、机に刺さった包丁を見て「フフっ」と笑い、そのままお腹を抑えながら爆笑した。
それは、もうすごい笑顔で。
「ねぇパンダ。君すごい誤解をしているみたいだから一応...フフッ言っておく...とねフフッ...アハハ。」
「な、なにがそんなにおかしいの。」
さっきまでの張り詰めた空気が、まるで嘘のように緩んだ。
「そもそも」と言いながら羊は頬杖をしていた手を外し、やれやれといったポーズをした。
「僕は君がここに住んでいることを知っていた。そこまでは君も理解しているだろ?」
「う、うん。」
「だったら、わざわざ君の住む家に入り込まなくても君を通報する事なんてできた。じゃあ何故、分かっていて通報もせず、ここに住んだのかという疑問を君は持つ。」
「うん、なうなう。なうだった。」
うんうんと頷いてると、羊は呆れた顔をして
「パンダ、君ってあれだね。覚えた言葉意味も知らずに使いたがるタイプだよね。」
「黙らっしゃい。話の続きをしてよ。」
図星すぎて、言葉に詰まった私は強引に話を戻した。
今思えば、黒狐が出掛けてからだいぶ経った。
30分は余裕で経っているというのに、帰りが遅い。
少し心配しつつも、とりあえずこの話にケリをつけなければいけない。
羊は少し悩みながらも口を開いた
「話は単純。君は囚われると厄介だから。逃げ続けてほしい。この国が頭おかしいことぐらいパンダも知ってるでしょ。」
それって、権力持ちの羊種族が言うか...?
興味津々になった私は、その話に食いつくかのようにひたすら頷いた。
「そんな国に絶滅種族の熊猫種族が捕まったら国は終わり。そこで、話を戻す。」
「ん?何か戻すことあったっけ?」
「いやいや、一番最初の質問の答えだよ。」
(1番最初の質問ってなんだっけ...?)
もんもんと思い出そうとして、なかなか思い出せない。
アッー!と思い出せそうになった時には外からザッザッと音とガチャとドアの開く音がした。
「食材買ってきたぞ。二人とも。」
両手にたくさんのビニール袋を持った黒狐が帰ってきたのだ。
「はぁーお前もうちょっっとだけ遅く帰ってきてくれたらなー。」
「何か不満でもあったか?」
「ううん、そんな事ないよ。よっしゃ!今日は私が作るから、黒狐達はそこで座ってて。」
大量の食材。
一体どこからこんなに買える金が出てくるのか不思議だけれど、これもまた今度考えよう。
黒狐には感謝だな。
1番話に困るところで帰ってきてくれたから。
それに、私が何故生きているのかはまだ、まだ、羊には教えられない。
双子の弟の約束がある限り。
2人には申し訳ないけれど
私は嘘を付き続けるよ。
クズな世界に救済を アマフィラ @amafira047
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クズな世界に救済をの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます