4話 記憶

「えっとー、つまりまとめると。私は騙されていて、本当はここ3人用のシェアハウスだったと。そして、貴方達は旅をしていて家が欲しく、安いここに住むことになったと。」


「あぁ。大体合っている。」


 あれから夜が明け、朝が来た。窓の隣にあるフカフカのベットに横たわり、寝るに寝れなかった私は、人生初めてかもしれないオールというものをした。


 眠い、とにかく眠いと。働かない頭と重たい瞼。バレないように被りっぱなしの帽子に、結いたまま跡がついたであろうお団子ヘアー。

 パンダのぬいぐるみを抱きしめながら、覚めない目を擦りながらリビングに向かう。


 ギィーと音を立て椅子を引き、古びた机にぬいぐるみを置いた。そして、今彼らと昨晩の話のまとめをしていた。


 簡素に言えば彼らは旅人らしい。

 フラフラと歩けば、そこらにある店に入り、食事を済ませ、また歩く。

 特に職と言う職には付いていなく、本当にただの旅人ならしい。


 私を初対面で驚かせた黒狐は、家事全般でき、冷静で真面目。笑った顔は珍しいだろうというレベルに無表情。けれどどこか優しい雰囲気がある。


 一方、子供扱いで煽る天才の羊は、基本優しいがすぐ人をバカにする。黒狐と真逆にいつもヘラヘラ笑っている為、怒るととても怖いだろうと言うことまで想定できる。


 羊と黒狐は相棒みたいだけれど、お互いがお互いを信頼しているというわけでもないようだ。どこかぎこちなく、相棒だけれど知り合い程度の馴れ合いしかない。

 正直、もっと共に戦ったり、相棒がいるから俺らはここにいるんだぜ。みたいなそんな感じのを想像していたけれど、なんかこう、言葉には出来ないけれど二人に壁がある感じがする。


「まぁ、もうこのシェアハウスの話題はいいかな。とりあえず...。」


 私は席を立ち台所へ向かう。

 もちろん冷蔵庫の中身は空だ。

 昨日の夜食べた生卵で最後だった。

 そっと開け、そっと目を閉じ、そっと冷蔵庫の扉を閉める。


 今の私はとにかく寝たい。

 後、お風呂にも入れていないから朝シャンもしたい。

 こんな状態であの市場なんかに突然してしまったら、多分しぬ。寿命がない不老不死のこの身体でも、死ぬ時は死ぬものだ。


「それでは、羊と黒狐さん。」


「何?料理失敗したの?」


「アホか羊。違うわ、昨晩の生卵でこの家の食材はなんと、消えてしまいました。」


「そう言えば、そうだったな。」


「いつも安売りしている、値引きをしてくれている、あの優しいおじいちゃんの市場ことスーパーに行きたい。」


 私はグッと拳に力を入れる。


「ん?行けばいいじゃん。」


 頬杖をしながら、あたかも自分は関係ないだろうと言わんばかりの態度で未が言ってきた。


「昨晩の出来事のせいで私はオールをしました。寝たい。兎に角寝たい。だから、食材買ってきてもらえないかな?」


 満面の笑みで私は彼らに言う。

 そりゃ、もうすってきな笑顔で。

 逆らわせねぇぞと、いう笑顔で。


「ふーん、そっか。どうする黒狐?」


「金はある。三人分の今日の食材くらいなら余裕だ。俺が行ってくるよ。」


 そう言って黒狐はスクっと椅子から立ち上がり、玄関へ向かう。

(いいな、外出る時一々変装しないで済むなんて。)

 心の中で少し羨ましながらも、彼の背中をただ見ていた。


 見覚えがあるようで、ない。

 思い出そうとすると記憶に霧がかかる。


「ねぇ、juez《フエース》。」


 さっきまでやる気のなかった羊が、私を呼ぶ。その目は何かを見透かす様な鋭い瞳だ。


「なに?」


 私は目を逸らさず、彼を見つめ返す。

 この空間だけ、まるで時が止まっているように感じる。


「君は不自然に感じなかった?今までの僕らを見ていて。」


「無いって言ったら嘘になるかな?」


 一番不自然だったのは、彼らがお互いを名前で呼ばないことだった。

 でも、相棒ってそんなもんなのかなとは、思っていた。


 そして、もうひとつ。

 どうやってお金を手にしているのか。

 旅人だから自給自足を、しているかと思えば普通に買い物だってしている。

 この世界には金目のものなど無いと言うのに。


「僕らは、相棒という形だけ。お互いの事なんて全く知らなければ、赤の他人に近い。」


「まぁ、そうだろうとは思ってたよ。」


 羊は一度目を閉じる。

 何かを言うか言わないか迷っているように。


 少しの静寂。

 君が口を開く。


「ねぇ、貴方ホントは全部覚えていて、わざとこの家に住んだんでしょ?」


 目を細めて軽く笑う君。

 覚えていていないわけじゃない。

 けれど。



「君は死んだんじゃなかったの?」



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