2話 商店街

街の商店街につく。

まだ朝方だと言うのに、人で道が塞がれている。

僅かな隙間に小さな体を入れ、私は目的の店へ向かう。


「うっ...ぎょえ...。」


女の子らしい「キャッ」なんて声は元々出せるタイプではないけれど、あまりの人混みに身体が押され野太い声が出る。



しかし、私フエース。

こんな人混みに負けるもんか。


「今日はっ。たいせっつな。人形の誕生日なんだっから!!!」


言葉の区切りがおかしくなったけれど、これくらいのやる気を出して行かなければ、心が折れそうだ。


店へ向かう人と帰る人が交わり、進んでは押されての繰り返し。

三歩歩いて、二歩下がるの状態に近い。


優れた身体能力を使えばこの程度の人混み、飛んですぐ店へ行けるのに。

自分の種族がバレれば、地獄行きだ。



「はぁ。」と軽くため息をつく。

正直、早起きして来たから空いてるかと思っていた為、この現状は想定外だった。ショックがでかい。



裏道から行って...と思っても人だらけ。


身長が低い私は、もはや自分の現在地すらわからなくなっている。



「あーもう!!!!」


一人声を上げ頭を抱える。

自分の計算が狂うと、後先考えてないからどうすればいいか分からなくなる。



途方に暮れていると、後ろから声がした。



「ねぇ、君。大丈夫?」



「へ?」



振り向くと、背の高い青年がこちらを見ていた。


赤い服に黒のライン。角に耳。


(...あー羊種族か。)


この世界には、羊・狐・熊猫の三つの種族に分かれている。


その中で最も権力を持っているのが、今目の前にいる人と同じ羊種族の者だ。


緑色の瞳の彼は、少し心配そうな顔で私を見ている。

彼の金髪が太陽に照らされ眩しい。


「ぶっちゃけ、全然大丈夫じゃありません。」


相手の顔を見ると身長差がありすぎて首痛くなるので、視線はコンクリートへ移した。


「もしかて、迷子?」


「な、訳ないじゃないですか。一応私18歳です。」


そう言うと、彼は目を丸くして笑い出した。


「フッ...あははっ。ごめんごめん。君が余りにも小さかったからてっきり迷子で困ってるのかと...フフッ。」


初対面相手によくまぁ、ここまで煽ってくるな羊種族め。



「はぁ、もういいですか?私急いでるんですけど。」


「とは言うものの。君さっきから全然歩けてないじゃん。」


「うぐっ。」


反論出来ない。

というかなんでこの人、私が動けてないこと知ってるんだ?


「...まさか、ストーカー!?!?」


「...違う違う。ていうか次それ言ったら殴るよ?」


「えー怖っ。ところで。」



私は、ポケットから地図を取り出し開く。


「ん?」


彼もまた、私が開いた地図を見るため屈んだ。


「私この店に行きたいんですけど、人多すぎて辿り着かないんですよ。」


「あーここか。確かに君じゃ行けそうにないね。」


「あなた絶対友達いないでしょ。」


「...それなりにいるけど?それとちょっと黙ってて。」


彼は私の手から地図を取った。



そして、いきなり私の目の前でしゃがんだ。


いきなりの行動に驚きが隠せないどころか、失礼ながら頭おかしくなったのかと思った。


「え?何。どうしたんですか?」


「おんぶだよ。ここ行きたいんでしょ?連れてってあげるから早く。」



ちょっと待てやコラ。

完全に私のこと子供扱いじゃん。


1度目を閉じ「んー。」と考えてみたが、この人の手を借りないで店へ行くのはたしかに難しい。


納得はいかないが、仕方ない。


「よっと...。」


彼の首へ手をやり、おぶられる。


片手で私を支え、右手を目の前の人に置いて


「失礼。少し肩借ります。」


と言ってその人の返事も聞かず、全体重を肩に乗せ、ぐるりと回り隣の屋根まで飛んだ。


「ところで貴方。名前なんて言うの?」


「どうしたの急に。」



屋根を飛び移りながら、走る。

帽子が飛ばないよう、頭を抑える。


「私、誰かに借りを作らせたくないの。だから今度会う時、返そうと思って。」


「へぇー。君って律儀だね。僕の名前はConvictor《コンビクター》。君は?」


「私は、juez《フエース》。」



私は知ってた。彼の事を。

けれど、彼は私を知らない。


青空の下。

流れる少しの雲。

ぎこちない雰囲気。

けれど居心地がいいこの空間。



「まぁ、またいつ貴方に会えるかは知らないけどね!!!あったら借りは返すよ。」



大きく後ろで伸びをする君。

初対面の振りして君に近づいた。

幼い日、遊んだ少女。

姿も見た目も全然変わってなくて正直驚いた。



「いつ会えるかって。今言ったよね?」



「うん。」



「きっとすぐまた、会えるよ。はい。着いた。」



目的地に着き彼女を下ろす。

初めは仏頂面だった君は笑顔で「ありがとう。」と笑い手を振って店へ入っていった。



すぐ会える。

なんの根拠もないような言葉だけれど、僕には確信があった。


だって、君が森から出てくるところを見たから。


僕が今度住む予定のシェアハウスの森から...ね。


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