最終話 理想の夏休み

 ピッ!

「はぁ、」

 クーラーの電源を入れ、机上に並んだ滲んだ数々の文字を見て、出てくるのは言葉ではなく、重たく生暖かい一つのため息だった。

「だめだなー、何をしても、どんな理想の夏休みを想像してもうまくいかない。」

 カタッ

 俺は無意識に転がったコントローラーを手に取り、ぼやけた画面に目を向けた。

 それからは、夏休みが終わるまで何も変わっていない。

 相変わらず自堕落で、生活習慣の乱れた夏休みを送っていた。

 でも彼は何も後悔などしていなかった。

 なぜなら、それが昌也の理想の夏休みだから。



 夏、不思議な響きだ。

 春夏秋冬、移ろう季節が織りなす世界だが、夏という季節にはなぜか惹かれる。

 イメージカラーでいうと赤だろうか、唐辛子、ケチャップ、チューリップ。

 最初に思いつくのは太陽だ。

 そこから溢れ出す光は、沢山の見え方があるだろう。

 全てを包み込む光、影を伸ばして陰と陽をはっきり教えてくれる光、カーテンの隙間から溢れる希望の光。

 この地球に生きる人々、一人一人に夏が来て、一人一人に夏休みがあった。

 それは、昌也が想像したようなリア充夏休みかも知れない。

 昌也と同じような自堕落な夏休みかも知れない。

 きっとそれはひとつひとつが輝いていて、誰だろうと邪魔のできない特別な時間。

 この夏、あなたはどんな夏を過ごすだろうか?

 進む地球温暖化のせいなのか、最高気温を次々と更新しながら暑さが身に染みて伝わる今。

 また、来年もそれは訪れる。

 きっと、もっと暑く、情熱的に。

 昌也の夏も何か変わるかもしれない。

 暑くて、汗でジメジメで、不快になる要素しがない夏。

 でも、楽しい祭りや、楽しいレジャー、思いつく夏の楽しいことは誰もやったことはないけれど、想像するだけで充分だ。

 そんな夏が俺は好きだ。

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