第7話 夏に溺れる

 虫取り網を握ったその薄汚れた少年の手は、持ち手を変え、次の瞬間僕の垂れ下がった笹のように伸びた腕を掴んで一気に引いた。

「おっ!おう!」

 薄暗い地獄から一気に天国にでもきたかのように視界がパッと明るくなった。

「ほら、早くいこーぜ。」

「あ、ああ。」

「なんだよ、変な昌也。」

 そうだ、これだ。

 友達と緑溢れる自然の中で遊びまわる。

 リア充とは聞こえが変わって来るがあの自堕落な生活よりはよっぽど活動的で夏らしい。

 その後俺たちは、自転車に乗り目の前に広がる青々とした田んぼの中にしなやかに伸びる細い歩行道を駆けた。

 久しぶりだ。

 高校には電車で通っているため、自転車に乗るのなんて中学生以来だ。

 燦々と照る太陽は照らすといっては優しいほど、ピリピリと俺の顔を腕を足をジメジメとしたこの体に宿った心を焼いた。

「いや、これは少し暑すぎるな。」

 想像とはいえ暑さを感じる。

 つくづく自分の想像力に感服させられる。

「よし、着いたな。」

 細い田んぼ道を抜け、折れた細い枝の転がった山道の入り口にたどり着いた。

 どんどんと進み、大きな木の前にたどり着いた。

「カブトムシいねぇーかなー?」

 カブトムシを探しているのか少年は、木の下にある落ち葉をかき分け始めた。

「ほら!昌也も探せよ!」

「おう、」

 だが、この昌也という男、都会生まれの都会育ち。

 虫取りなど生まれてこの方したことが無い。

 見よう見まねで落ち葉をかき分けた。

 …

「よし、川いこうぜ。」

 虫取りは一時間ほど続いた。

 最初は落ち葉掻きからだったが、木を蹴ったり、遂には木を登らされるはめになった。

 ここに来て昌也の疲労はかなり限界に来ていた。

「ほら、はーやーく!」

 いかん、でも、想像の中なら何もないだろう。

 ただ、疲れてるだけだ。

「おう!今行k」

 バタ!

 倒れた、俺が倒れた。

 熱中症なのか、なんせ夏にこんな外で遊んだことも無いもんだからこんなに早く倒れるとは昌也は思わなかったのである。

「お、おい!大丈夫かよ!」

 …

 それからの記憶はない。

 ただ、現実の部屋の机に汗だくの俺がが突っ伏して寝ていた。

 暑い部屋でずっと想像していて軽い熱中症のようだ。

 机上のノートは汗でふやけて書いた文字たちの姿はよく認識出来なくなっていた。

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