第5話 咲かない花

「へぇい、らっしゃい。」

 金魚すくい、それは夏祭りでは常連の屋台であり、そこでの腕前で連れからの評価を得ることができる。

 そんな彼の今日の連れは彼女である。

 そう、あの控えめな彼女。

「おりゃ!おりゃ!」

「わぁ!すごいね!昌也くん。」

 ふふ、彼女から好評である。

 想像での金魚すくいなど容易いこと、ここはひとつ彼女にいいところを見せてやろう。

「わあー!いっぱいとれたね!」

 少しやりすぎたか。

 彼の持つ袋には赤や白の金魚がパンパンに詰まっていた。

「ふふ!金魚すくい作戦成功!」

「はい、いらっしゃい。」

 机上に並べられた鉄砲。

 そうここは、射的屋、気になるあの子のお目当ての景品を落とせればその子も落ちること間違いなしである。

「どれとってほしい?」

「え!いいの!じゃあ、あれ!」

 彼女の伸ばした手の先にはいかにも大人しい女の子の好きそうな手頃なクマのぬいぐるみが座っていた。

「よし、みとけよ!」

 パン!

 放たれた弾はぬいぐるみのわずか左をかすった。

「はい残り、4発だよー。」

 おかしいな、1発で仕留めてハートをズキュンなばずだったのにな。

 パン!

 次はぬいぐるみのわずか上を。

 あれ?

「はい残り3発だよー。」

 パン!パン!

 あれ?あれ?

「はい、ラスト1発。頑張りなー。」

 何故だ?放たれる弾は毎度微調整を繰り返しても何故か思ってもいない方向へといく。

 パン!

 見事ぬいぐるみに命中、だが、

「あちゃー。惜しかったねー。」

 無慈悲にも弾丸を受け止めたぬいぐるみは台上から落ちず、そこに鎮座したままだった。

「ご、ごめんな。取れなくて。」

「い、いや、いいよいいよ。難しいもんね。」

 くそ、おそらく射的屋によって鉄砲の銃口に何か細工されていたのだろう。

 上手くいっていたのに祭り側の邪魔が入ったか。

 ポワン!

「もうすぐだね!花火!」

 そうだ、夏祭りには最後のフィナーレ花火というイベントがある。

 ここで、しっかりロマンチックな一言でも決めれば彼女の心はぐっと近く!

 リア充夏休み待った無しだ。

 パラ、パラ、パラッ!

 雨、それは一粒また一粒と無情にも然りなく降るその雨はあっという間に昌也の心に雨雲を生んだ。

 ハッ!

 いきなり現実に引き戻された昌也はカーテンを上げ外を見る。

 雨だ。どうやら夏によく降る通り雨のようだ。

「くそ、止め!止め!」

 昌也は必死に想像の世界に唱えた。

 パラパラパラッ!

 だが、雨は止むどころか勢いを増すばかりである。

「駄目だ、いくら想像で念じても止まないぞ。」

 聴覚から来る悪夢は絶え間なく続いた。

 ポワン!

「降っちゃったね。」

「お、おう、そうだな。」

 駄目だ、こんなんじゃロマンチックな雰囲気もクソもありゃしない。

 だが、それからの展開はお通夜ムード一直線であった。

「じゃ、じゃあね。」

 別に俺がヘマをした訳じゃない。

 彼女との関係が海のように決定的に離れた訳じゃないが、花火が上がるのと上がらないのでは雲泥の差がそこにはあった。

「はぁ、」

 雨のせいで湿度も上がり、ジメジメとしてきた昌也の部屋、しばらくの沈黙を経てその溜息は空間に落ちた。

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