第3話 塩味のビーチ

 ザッパーン!

 肌を焼く日光に照らされた砂の銀河と音を立ててうち引く波、見渡す限りの水平線。

 そして鳴り響くリア充たちのキャッキャウフフの笑い声…。

「海来たー!」

 そこに場違いに叫ぶ男はどうやらこの物語の主人公、昌也という男らしい。

「想像の中の海でもボッチな俺って(泣)。まあ、そんなことよりリア充といえばまず友達だよな。」

 ポワン!

 すると昌也の周りには思い描いた通りの水着を着た男女が10人ほど現れた。

「うわ!そっか、想像したらすぐ現れるのか、じゃあ次はー、可愛い彼女かなー。」

 ポワン!

 気持ち悪いニヤついた彼の前に、アニメに出てきそうな端正な顔立ちで多少引き締まった体の美少女が微笑んで立っていた。

「昌也!海楽しいね!」

「えっ!あっ、まぁ、そうだな〜。」

 いかにもコミュニケーション能力の欠落した会話を繰り広げた。

「くそ、想像でもコミュ障だなんて聞いてねぇよ。」

「ほら、皆海入って盛りあがろーぜぇー!」

 いかにもリア充のチャラ男が指揮をとった。

「ほら、入ろー昌也!」

「お、おう」

 美少女に連れられるがままに海に入った昌也。だかしかし、

「おわっぷ!なんだ泳げねぇぞ!」

 そう、この昌也現実で泳げないのである。

 想像ならば泳げるかと過信していたが、水イコール怖いという固定概念からか、そもそも泳ぐという感覚を知らないからか、想像でも泳げないなんとも悲しい男である。

「もぉー、昌也かっこ悪いー!」

 彼女に半ば失望されてしまった。

「く、くそ!何自分の想像でもヘマしてんだ。そうだ、俺が指揮しないでどうすんだよ。」

 ポワン!

「昌也ー!頑張れー!」

 黄色い声援が聞こえ、周りを見渡すと、そこはビーチバレーのコートだった。

 チャラ男たちとビーチバレー、本来非リアなら誰もが怖気付く状況だが、昌也は中学の時、バレー部を経験していて、バレーには少し自信があった。

「そうだ。想像なんだから、自分の得意分野に持ってかないでどうする。」

 ピッー!

 始まった試合ではまず、相手のチャラ男のサーブを味方のチャラ男がレシーブ、セッターのチャラ男が俺にトスを上げ、そこには高く跳躍した昌也がスパイクを打とうという構えで待っていた。

「よし!これならいける。活躍できる!彼女を喜ばせれる!」

 だが次の瞬間、ボールは無慈悲にも味方のコートに落ちた。

 それは相手の長身のチャラ男のブロックによるものだった。

 そうだ、忘れていた。

 チャラ男、それは運動神経抜群で、クラスマッチ等においてもその種目の部活生とも渡り合える、そんな生物だった。

 またしても彼は、現実の長い非リア生活の影響が想像にまで及んでしまった。

 その後もなにぶん久々だっだバレーもあり、結果は全く活躍できず、彼女は途中から他のチャラ男を応援していた始末である。

「な、なんでだ。なんでこんなうまくいかないんだ。」

 ポワン!

 時は夕暮れ、茜色に染まったビーチに彼女と二人きり。

「なんだ、さすが想像こんなロマンチックな雰囲気創れるんじゃないか。」

「あのね、実は昌也と別れたいの。」

「えっ、」

「だって昌也、せっかく海来たのに泳げないし、元バレー部だっていうから応援したのに全然活躍できないし、極め付けになんか、

 隠キャ臭いし。」

 隠キャ臭いし、隠キャ臭いし、隠キャ臭いし。

 そんな痛烈な言葉を自分の想像で、しかも想像で作った彼女に言われるなんて。

「ああ、そういうことか。」

 何かを悟ったように呟いた。

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