第8話


「……なんで私逃げちゃったんだろう。」


まだ胸がもやもやする。

奏太たちから逃げて、屋台が並ぶ公園の外に出た。



「痛っ!」



今日は散々下駄で走り回ったせいで、足の指の付け根から血が出ていた。


「もう、なんでよー…。」


とりあえず、近くにあったベンチに座って下駄を脱いだ。


周りを見渡すと、恋人達や、友人同士でお祭りを楽しんでいる人が溢れている。


あれだけ前から花火大会を楽しみにしていたのに、今日は全く楽しくない。


「いや、原くんと周ってたのも悪くはなかったんだけど…。てか、後で原くんには謝らないと…。」


誰が聞いてるわけでもないのに、言い訳する。


原くんは悪い人じゃない。むしろすごく優しくていい人だと思う。


だけど、やっぱり違った。

気づくと近くに奏太を探してる自分がいた。いつも意地悪で、私が何か言うと面倒くさそうな顔になって、でも結局は笑ってくれる奏太がいないとダメなんだ。



「……気づいちゃったよ…。」


でももう遅い。奏太の側には美人な女性が並んでいた。自分が恋人として隣に立つことはもう無理なのだ。



高校入学して、奏太と加奈とすぐに仲良くなった。学校では常に3人一緒で、遊びに行く時も、私と加奈で奏太を振り回していた。


加奈に彼氏が出来てからは、奏太と2人でいることが多くなったが、それでも何も変わらなかった。



「なんで今更好きになっちゃったかな。」



もう独り言ばかりだ。

これも全部奏太のせいだ。



ここからは花火は見えないが、音だけは盛大に鳴り響いていた。誰もが花火を見ようと、ここから移動している中、逆走してこちらに向かってくる影が一つあった。



「椎菜!」



「…奏太。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青い夏 しゃの @nanana1230

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ