第7話
「椎菜さん、ちょっと待ってー!」
「ええっと…、射的のところは……。あっ、あそこか!」
「…はぁ……椎菜さん、足速いね…。」
人混みを潜り抜けながら走っていたのに、椎菜は全く呼吸が乱れていない。
「原くんは運動苦手なんだね。ごめんね、大丈夫?」
少し息の荒い原を慮っていると、射的屋の前で歓声が上がった。
店の前にいる客たちが「すごっ!」や「おみごと!」を繰り返し口にしている。
「どうしたんだろうね?」
椎菜と原が不思議に思っていると、徐々に店の前にいた野次馬が散らばり、店の前にいる二つの人影が見えた。
「そ、うた……?」
「あ、本当に奏太くんだ。隣の女性は彼女さんかな?」
「知らなかったなぁ」などと呑気に椎菜に話しかけている原の隣で、椎菜はとても動揺していた。
「椎菜さん、大丈夫?」
原は先程から黙っている椎菜に声をかけると、いつもよりも明るい声が返ってきた。
「うん、大丈夫。なんでもないよ! ただ奏太に彼女いるの知らなかったから驚いただけ!」
「そうなんだ。あ、奏太くんも僕たちのことに気づいたみたい。」
射的屋の方を見ると奏太と目が合う。奏太は隣に立っている女性に声をかけてから、椎菜に近づいてきた。
「……椎菜。」
「な、何?」
「このスマホ、お前のだよな?」
そういって奏太は、椎菜にスマホを差し出した。
「あっ、ありがと。」
「しっかりしろよな。そんなとこ見せたら原に嫌われるぞ。」
「な、何言ってんのさ! 原くんは、
奏太に言われた言葉が心の中で渦を巻く。しかし、何にモヤモヤしているのかも分からず、椎菜は勢い任せに色々と言葉にした。
「それよりそっちこそいいの?彼女さん、ほったらかして。 愛想尽かされるまで後ちょっとなんじゃない? 」
「は? 何言ってんだよ。あいつは…」
「奏太、 遅いじゃない!」
奏太の話の途中で店の前にいた女性が奏太に声をかけた。そして当たり前のように奏太の隣に立つ女性の姿を見て、椎菜はなぜかまたイラッとした。
「奏太のお友達?」
「そうだよ。」
話し始めた女性を見て、更に椎菜は目を見張った。詳しく言うと、女性の腕の中を見て。
先程原と二人で失敗した、射的の景品のまゆペンのぬいぐるみを、彼女はしっかりと抱いていたのだ。
「椎菜さん……。」
気遣ってくれる原にも気づかないほどに、椎菜は周りが見えなくなった。
「…彼女がいるんだったら教えてくれればよかったのに!水臭いなぁ!」
「おい、だから話を…。」
「だって私たち友達でしょ!」
「…そうだな……。」
自分で口にした言葉なのに、なぜか椎菜は奏太の肯定で刃物で傷をえぐられたかのような心が痛くなった。
「…なんでそんなこと言うの。」
椎菜の呟きは奏太には聞こえなかった。
「は? なんだよ。」
椎菜の目頭が熱くなっていく。
「奏太のバカ!」
奏太と見知らぬ女性のツーショットを見ていたくなくて、椎菜はその場から走って逃げだした。
背後で花火が上がる音がした。
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