0章 雌バチは一直線に飛ぶ 4
GPS表示されたナビマップを一瞥する。
いちどのジャンプで自機を示すカーソルは前方へとちょっぴりワープして、地図がそれに追いつくようにカクカクと揺れたたのち、自機表示が中央に戻る。
数回のジャンプをくりかえすと、目の前にいたプロペラ飛行の同業者に追いつき、もういちどの跳躍で高さも一致する場所に移動する。
「やっほー」とニジミのハード・トイがうでを振ると、プロペラ付きハード・トイがニジミに向けて赤いライトをパッシングさせた。
《俺の獲物に手を出すな》
同業者の中で交わされる一種の挨拶である。
無論、律儀に守る同業者などいない。有名無名にかかわらず、依頼者が出てきたらレースは始まり、誰がエントリーしても決めるのは依頼者の方である。希望があれば決闘だってして勝った方が仕事を得る。
「勝負は常にフェアで早い者勝ち。一番乗りは私らだかんねーっ☆」
ニジミも同じように赤いライトを照らし返して陸路に着地した。
すぅと深く息を吸う。市街の中心地は人も車も多くなり道幅も狭くなる。
「空からだとまっすぐ進めるからいいよね」
ここからはさらに精度が重要だ。
「こんどクラウにジェットブースター付けてもらおっか、ヴェスパーくん」
ボタンの並ぶ操作パネルに向かってひとり言をつぶやいて、ニジミは連動操作ダイヤルをひねり、動作連動率を200パーセントにする。これで10度足を振れば機体は同じ所要時間で20度振り上げるようになる。単純に機動力を二倍にしたわけである。その分誤差によるブレも倍増するため集中力を要するが、
「いちおうこれは念のためってことで、メインは道路っと」
ニジミは少しだけヒザをかがめ、しゃがむ姿勢をとって空気抵抗を減らしたミツバチマークのハード・トイは、足のローラーユニットで地面と水平に急加速する。
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