0章 雌バチは一直線に飛ぶ 2

 この日一番の跳躍。

 ニジミは放物線軌道の頂点で一瞬だけおとずれる重力からの解放を楽しんだ。

 モニターからダウンタウンを一望する。レンガ作りの建物が立ち並ぶ。


 開拓指導者は欧州系の人かな? 

 街並みは良い感じにぼけた色味があって、一〇〇年は経過してそうだよね。


 七日の滞在でこの惑星のことが少しずつわかってくる。

 約400年前に人類は惑星開拓と開発に乗り出した。それが可能になったのは位相差空間ワープと惑星間光速巡航法が確立したためだった。

 簡単に言えば宇宙空間に別銀河系への近道が見つかって、進んでみたら安全だったので利用している。そんなところらしい。ニジミの相棒である、クラウディア・ティア・エルガンが簡単に説明してくれた。飛行機が空を飛べる理論もよくわからないニジミには――とにかくすっごい便利なものを見つけて昔の人が使えるようにがんばった――くらいにしか頭に入っていないし、それで困ったこともない。


 頭より体を動かす方が楽しい☆


 その生活指針でニジミ・サニーライトは16年間生きてきた。

 跳躍中の機体バランスを調整しながら、スピーカーをオン。

 街中に向けて声を拡散させる。


《街のみんなこんにちはー! 安心・格安・美少女クルーでおなじみのレンタル用心棒バウンサー『ハニービー』でございまーす。ただいまあたしたちはK区画26を目指して直進中ー。チクっとされたくない人は、あたしたちの道を塞がないようにおねがいいたしまーす☆》


 言い終えて、前方の建物の一番強度が高いところを見抜いて着地。

 そしてまたすぐに前方上方へと跳躍。


《もーいちどくりかえしまぁ~す。こちらは安心・格安・美少女クルーでおなじみ――》


 この声に町中からは、「ハチが来やがったー!」「逃げろー!」「誰だぁ、街の用心棒タウン・バウンサーアプリを使ったクソ野郎はっ!」「神よ、私たちの街をあの悪魔から守りたまえっ!」「さっさと出てけーっ!」という、大ブーイング&阿鼻叫喚が生まれたが、ニジミのいる上空までは届かない。

 信号の変わり目でちょうどスペースが空いた十字路の中央に着地したニジミは、非難の車のクラクションを街の人の挨拶と受け取って、


「ありがとー♪」


 と、にかっと白い歯をのぞかせて笑顔で手を振って、また空高くジャンプした。

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