Disrupting Bee =でぃすらぷてぃんぐ・びぃ=

明石多朗

0章 雌バチは一直線に飛ぶ 1

 建物の屋上からまた別の屋上へ。

 大型歩行機ハード・トイが三段跳びのように下半身のパーツをうねらせながら、民家の屋根の上をんで行く。

 高速で移動する影に一瞬でも覆われた人々は、通り過ぎた物体を見上げ、青ざめ、自身の身が無事だったことに安堵しつつも急いで各々の通信手段で伝達する。



――ヤツが出稼ぎに来やがった!――

――中心部に向かってる!――

――いいか、窓側と壁側には立つな!――

――踏み潰されたくなかったらとにかく止まるな! 逃げろ!――



 そんな背後の騒乱そうらんもどこ吹く風。

 明るく柔らかな白とグレーのマーブル塗装をほどこされた大型歩行機ハード・トイは空を泳ぐ。


 左肩にだけ赤のワンポイント。

 ボディ側に顔を向けた、横向きのミツバチが描かれている。


「はいはーい、こちらはみんなの街の用心棒。『ハニービー』でーす。そこのおばあさーん、そのまま動かないでねー」


 操縦者のニジミ・サニーライトは、両手の操縦桿そうじゅうかんを握り直してぺろっと舌を出す。新調した連動操作用の胴体のバンドが良い感じに体にフィットしてて気分が良い。操縦席の上でミリ単位で体と重心を移動させる。

 鋼鉄の分身がスムーズに動きに対応する。

 屋上で洗濯を干していたおばあさんの前に着地。


「あいとぉー!」


 起こった風に洗濯物が舞い上がる。


「いっぱぁつ!!」


 全長4メートル強の、人間を模したロボットは重力を感じさせないように沈み込み、すぐさま跳躍した。おばあさんの方に振りかえりひらひら手を振る。そしてまた正面に向き直り、建物から建物へと忍者のように跳んでいく。

 舞い上がっていた洗濯物が、すべて床に落ちた。

 おばあさんは表情を変えずに落ちた洗濯物を拾い上げ、手のひらサイズにまで遠ざかった邪魔者に向かってしわの入った手の甲を静かに持ち上げる。

 脇を締めて、ピッと中指を突き立てた。

 表情こそ穏やかだが、そのこめかみと手の甲には、うっすらと血管が浮いていた。


「あーい・きゃーん・ふらーいっ♪」


 ニジミはオールドムービーが由来のかけ声で、この日一番に高く飛翔んだ。


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