1章 雌バチは守るために刺す 9

 爆音がニジミの立っているビルの屋上から徐々に離れていく。

 起こる爆発とその煙で、移動機の経路がよくわかる。

 近くで起こった爆発がぐらぐらとビルを揺らす。

 大きな音がおなかの中を押し込むようにぶつかってくる。


 ……ヴェスパーくんが来たらさっさと終わらせよう。


 跳ね上がるどこかのブロック片に、おくれて上る灰色のけむり。

 街はボロボロになっていた。

 相棒への心配はない。

 だがルックが怒っていように、どこかに退避した何も知らないこの街に暮らす人がいると思ったらちょっぴりけるような感覚が腹の底からやってくる。

 目より先に、耳が届け物の接近を察知する。

 無人ジェットから切り離され、上空でパラシュートを開いてやってくる愛機を見上げる。白とグレーのマーブル塗装をしたハード・トイが、鉄板の上でヒザをついた姿勢でワイヤーで体を固定されながら、ニジミに向かってまっすぐに滑空する。

 ビルの屋上に着地するや、ニジミは腕の端末を叩いて固定ワイヤーのロックを解除した。

 固定箇所が飛んで外れ、ヴェスパーと名付けていたハード・トイの解放され腹部に飛び込むと、ハッチを閉じて腕の端末で生体認証を完了させた。座席前のパネルが緑色に光る。


「ヴェスパー君、悪党退治だよ!」

 連動操縦のダイヤルを200パーセントにねじる。


 ――のこり61秒。

 ――懲らしめるのは黒いの5体!


 操縦席の下、足場をグンッと押し込むように力を込めた。

 ニジミの乗るハチのマークのハード・トイがビルの屋上から飛び出した。


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