お抱え様

いすみ 静江

生業

「いただきます」


 凛花りんかは、一汁一菜のお膳に一人で唱える。

 これは、えさ……。

 凛花の生業なりわいを支えるもの。


 『おかかさま』を休む訳にはいかない。

 凛花が餌の時間だけ、神に許された、四分五十九秒。

 この間に『お抱え様』に戻らないと、地球が無くなってもおかしくない。


 凛花は、早く飲み込んだ。

 四分四十八秒。

 末広がりの八が入るように戴く。


「ごちそうさまでした」


 米粒ひとつないお膳に手を合わせる。

 後ろの襖を引いて、畳に頭を擦り付けた。


「お待たせ致しまして、申し訳ございません」


 百合ゆりの如くすっと立ち上がると、赤い組紐くみひもで支えていた『お抱え様』が危うく揺れる……。


 なまめかしく凛花がかいなを回し、ゆるりとまとわりつくと、しっかと抱きしめた。



 ――凛花の身の丈程の『核』だ。



 『お抱え様』の巫女を生業とする。


 次の餌は、二十四時間後。

 それ迄、邪念なくお守り致さねばならない。


 さもなくば、終わりのない世界が、後、五分で――。




 ……無になる。





          <了>

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お抱え様 いすみ 静江 @uhi_cna

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