第13話 夢か幻か
そう、私の目に飛び込んできたその姿は、見間違えるはずもない、あのK君だった。
何故K君がこんな所に居るの?と、一瞬頭をよぎったけれど、そんな些細な疑問もすぐに消えた。
私は、早く出してくれ~!と車内で暴れまくった。ドアが開いた瞬間にはもう飛び出して走り出していた。猛ダッシュで一目散に。
そして、しゃがんで待っているK君にダイブした。私は全く気がついてなかったけど、路面にオシッコを撒き散らしていた。
『ナナ、嬉ションしてるで♪』私を抱き上げて撫でるその手も、顔も、声も、私のテンションを更にヒートアップさせる。
興奮が収まるまで、K君はずって撫で撫でを続けてくれた。
ほんの少し前まで、不安で不安でたまらなかったのが嘘のように気分が安心感に包まれている。
私の興奮が収まると、Hちゃんは車から私の荷物をK君に手渡し、『ナナ、ええ子にするんやで、バイバイ』とだけ言って、車で去っていった。
遠ざかるテールランプを見つめながら、『あっけないもんやなぁ…』とK君が呟いた。
『さぁナナ、行こうか』そう言うと、K君は私を抱いたままテクテクと歩きだした。
そして立ち止まると、『今日からナナはここで俺と一緒に暮らすんやで~』と言い、玄関を開けた。
『ただいま♪』
私には小さな部屋が与えられた。
一通り私の荷物を出して部屋に装備すると、『今日からここがナナのお家、ここがナナのお部屋、はよ覚えてな♪』
すぐにご飯とお水が用意された。この日のご飯を私は忘れないだろう…。いつもと同じフードなのに、何故か私はバクバクと食べた。何故か凄く美味しいんだ。横を見ると隣にはK君がいる。笑顔で私が食べているのを見てくれている。
忘れていた、もう2度とないだろうと諦めていた、あの懐かしい光景だ。
私は褒めてもらいたくて、早く遊んでもらいたくて、いつもはチマチマと時間がかかるのに、その日はあっさりと完食した。
夢ではない、これは現実だ。私はまたK君と暮らせるんだ。
ご飯を完食した私は、また興奮が甦ってきて、部屋をグルグルと走り回っていた。
勢い剰って座蒲団で足を滑らせると『ナナは相変わらずどんくさいなぁ♪』と笑われた。
こんなに嬉しくて楽しい気分になれたのはいつ以来だろうか…。
嬉しくて楽しくて、その日の夜は一瞬に過ぎたような感覚だった。
不安から一転しての出来事だったから、余計にそう思えたんだろうな。
嘘みたいだけど、まだ実感なんて湧かないけど、私は今日からここで暮らせるんだ。
K君と一緒に。
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