第12話 急展開

Hちゃんは私の里親探しをしまくったが、案の定簡単には見つからない。私を一緒に連れて出られる状態ではなさそうだ。と言うよりも、自分が苦労してでも私とだけは離れたくない…なんて気持ちはもはや微塵もない。

電話相手の中には、『そんな状況で言うてくるって、その子が邪魔なんやろ?邪魔やって思てるのに人に押し付けるってどうなん!』って言ってた。

ある意味正論だ。引き取らない側には非はないから。冷たいと思われようが、無理なら無理と言うしかない。

無理なら初めから飼うなと言われたらその通りなんだ。

Hちゃんは周りにワンコを飼ってる知り合いが数人いて、それでワンコを欲しがっただけなのだ。私でなくてもいいし、本来、ワンコや動物を飼う以上は持っていて当然の覚悟や計画性が無かったんだ…。


まだHちゃんは電話をしている。見つかるアテもなく。

私は生きる事を諦めるしかないのかもしれない。怪我や病気なら天命として受け入れないといけないだろうが、このケースは違う…。

でもワンコの私に選択権はない…。

さっきから、やたらと電話の向こうの怒鳴り声が聞こえてきていた。Hちゃんも言い返していたけど、Hちゃんが言う都度、更に怒鳴り声が聞こえた。

Hちゃんが電話を切った後、凹んでいた。

また断れたんだろう…。

次にまたかけるのかと思ったら電話を置いて、何やらごそごそと荷造りを始めた。

しばらくして、『ナナ、行くよ』と荷物を抱え、私を抱いて車に乗った。どうやら荷物は私の荷物だったようだ。

どこへ行くんだろう…。私は不安で仕方がなかった。まずは、やはり先に私が追い出される事になるのか…。

運転席のHちゃんの足の上で私はブルブル震えながらキューンキューンと泣いて怖さを訴えるしか術がなかった…。


しばらく走ると、狭い駐車スペースに車が止まった。夜だから場所はよくわからない。

もしかしたら私はこの場所にひとりぼっちで置いてかれてしまうんだろうか…。

震えが止まらない、不安で仕方がない。私は野良として生きてなんかいけないよ…。

何をしているのか、車が動き出す気配はしない。5分くらいたったかな?もういいから早くお家に帰ろうょ!私はそう要求し、Hちゃんにキューンキューンと訴えを繰り返していた。震えは、止まるどころかガクガクの振動が早くなる一方だ。

その時だ、車が止まってるスペースのすぐそばの暗い道を、人が歩いてこっちにやってきているのに気がついた。

そして、近づいてくるその人影が、ポツンと1つだけある薄暗い街頭にぼんやりと照らされた瞬間、私の震えがピタリと止まった。

現れたのは、明らかに見覚えのある、いや、私が忘れるはずのない人物だったんだ。



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