第97話今日子との数学の勉強
年齢上二浪扱いとなってから、雪絵は慶応大学のどこかの学部に入るために、去年もチョコチョコと受験勉強はたまにはしてはいたものの、本格的に受験勉強を、やりはじめることになった。
受験のための勉強をすることに、専念するという行為自体が、雪絵にとっては久しぶりの体験であった。
しかしとにかく慶応大学に入ることが絶対的な『使命』であったので、入りたい学部には特にこだわりを持たずに、英語と国語と世界史、そして小論文の勉強は、予備校の単科講座を受講することにして、それに加えて今日子に数学を、同時並行で習うことにした。
受験で使う勉強の内容に関しては、高校生だった頃の記憶が、多少は雪絵自身の中に残っていたため、スムーズにその記憶が受験勉強へとつなげることが出来たのは、せめてもの救いであった。
ただ本格的に受験勉強をするのは、高校を受験したとき以来久しぶりな体験であったため、今のメンタルの調子で、上手く継続してやっていけるのかどうかが、雪絵の中では心配ではあったが……。
今日子と雪絵が、実際に一緒に数学の勉強をするようになったとき、今日子は雪絵の前では、努めて明るく振る舞うように、気を使っていた。
「雪絵ちゃん。元気そうだね!」
そう今日子が明るく挨拶すると、雪絵は「そう?」とだけ返事を返した。
「顔色も良さそうだからね」と今日子が言う。
(本当は今日子から見ても雪絵はやつれた表情に見えたし、顔色も決して良くはないことは、今日子にもわかってはいたが、あえて今日子は雪絵に明るく声をかけることにした)
「それじゃあまたいつものように、数学の勉強をしようね!」
今日子は努めて明るく振る舞い、とにかく雪絵をグイグイと引っ張っていこうとする。
「数学を使って受験する予定の慶応は、今のところ経済学部と、商学部と、あとSFCだけれども、それぞれの学部の過去問を見てみたら、そんなに露骨に難しいことを問うている感じの、過去問じゃないみたいだね。だから教科書レベルの基礎に、いかにどれだけ肉付け出来るかが、勝負だと思うのね。あとどちらかと言うと、SFCは文系の数学を使う大学の過去問に、傾向が似ているのかな?」
こんなやり取りを雪絵と今日子の二人はしながら、徐々に数学の勉強をするようになっていった……。
ところで肝心の模試の結果なのであるが、模試を受けるたびに大体B判定という返事が返ってきていた。ただし模試を受けた日の調子が悪かったときなどは、C判定が出る……といった具合であった。
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