第63話今日子のはじめての家庭教師その5

「知美さんの今通っている高校っていうのは、私立なのでしょうか? それとも公立なのでしょうか?」

 そう今日子は聞いてみた。すると知美からの返事は、

「実は私が通っているのは、商業の高校なのです。ですので周りは秘書になるための検定試験の勉強をしていたり、あとは簿記会計の勉強なんかをしているのです」

 と、今日子にとって予想も出来なかった、意外な返事が返ってきた。

 これには今日子も驚きを隠せなかった。差別的な言い方になってしまうのかもしれないのだが、今どきこの少子化の時代に、商業の高校が生き残れていることにもビックリしたが、商業の高校に通っているのに、なぜ物理学科を目指しているのだろうか? という疑問も、今日子の中で生まれつつあったので、知美にいつか機会があれば、なぜ物理学科を目指しているのかという、その理由を、知美に聞いてみようとも、今日子は思いはじめていた。 と同時に、今の話で今日子の中で、知美の数学の予備知識の無さの疑問点も、氷解したのは事実だ。なぜならば商業の高校で、大学受験のための数学の授業なんて、そもそもが用意されているはずがなかったからだ。

 それを知った今日子は知美に、こんな質問を投げかけることにした。

「他の科目……例えば物理や英語の方は、どうなのでしょうか?」と……。

 それを聞いた知美はどうも英語は得意のようで、理科大の過去問を解いていても困っている状態ではないという。だが物理も数学と同様に、焼け野原状態であると、今日子の質問に、知美はそう答えた。

(数学の方は私がなんとか教えることが出来るとして、物理の方はどうしようかしら……)

 その話を聞いて、今日子はそんなことを考えていた。

 今日子も高校生のときに、数学の学科を目指すと腹を決めるまでは、物理も一応は勉強をしていた。ただし今日子の今の物理の実力が、果たして理科大レベルに通用するであろうか……という点が問題であった。

(明日受験用の物理の問題集を、ちょっと読んでみて、そして買ってみよう)

 物理が鬼のように出来るのは、中学のときの徹也を今日子は思い浮かべたが、徹也自身が今は浪人中で、自分の勉強で手一杯であろうことは、今日子は容易に想像が出来たので、今日子自身で物理の方も何とかするしかないと、そう腹を決めた。

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