第62話今日子のはじめての家庭教師その4

 と同時に、季節は六月である。いまさら「学校で使っている教科書を持ってきて。そこからはじめましょう!」でも間に合わないことも、今日子は悟っていた。ようは入試を突破すれば、当面は問題ないのである。

 その日は結局他に教材も、知美は持参していなかったし、また今日子も青チャートの代わりになるような教材を持っていなかったので、青チャートの微分の計算問題の部分を、式変形までくどいくらいに丁寧に教えてあげることに、徹することにした。

 気がつくと三時間ほど今日子は知美に、数学を教えていた。知美は今日子に対して、

「数学を教えて頂く授業料は、いくらお支払いすれば良いでしょうか?」

 と知美は今日子に聞いてきたが、今日子自身も、これは将来教師になるためのある意味『勉強』になるとも思っていたので、

「お金は大丈夫ですよ。私も実は数学の教員志望だから、大学に在学中にどこかで誰かに数学を教えるって経験を、大学在学中に経験しないといけないなって、そう思ってはいましたから……」

 今日子は知美に、そう答えた。

 話を聞いてみると、知美はいまどき女の子では珍しく物理科志望であるが、数学がこのような状態である。物理の方はどうなのだろう? よく予備校では大学入試は英語が勝負だと教わる。特に英語関係の学部や学科を出た先生であれば、なおさらそういったアドバイスを生徒にしてしまう。例えば分厚い文法書の通読を推奨してしまうなどである。しかし大学に入ったら、数学科なら数学が、物理学科であれば数学と物理の方が、英語よりもはるかに重要になるのである。少なくとも今日子が教わった英語の先生からは、そのことを今日子に(英語の先生でありながら)強調して教える先生だったからだ。

 高校三年生にしては、あまりにも数学についての予備知識が無さ過ぎるので、今日子は恐る恐る知美に、次のことを聞いてみた。

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