第61話今日子のはじめての家庭教師その3

 そして実際に知美が持ってきていた参考書を見て『これではダメだね……』と、今日子が思うのも、無理はなかった。なぜなら知美が持っていた参考書は、いわゆるチャート式で色は青。いわゆる『青チャート』であった。

 今日子も青チャートを使っていたからわかるが、この参考書は、例えば白チャートや黄チャートと違って、使用者のターゲット層が絞り込めていない。 

 これが白チャートならば教科書レベルの完全理解。黄色チャートならばセンター試験を時間無制限なら完答出来るように作られているなど……。ようは(全くのド基礎問題は除いて)教科書レベルから、難関大でも通用する実力をつけるために幅広く問題が選定されて、編集されているのが、青チャートと呼ばれる参考書の特徴なのである。つまりは使い手の実力に対して、収録されている問題の中から上手く問題を選んで使い進めないと、挫折する可能性が極めて高い教材でもあるのだ。

(とりあえず、知美さんの現在の学力の状況を知るのが先だ……)

 そう思った今日子は、理科大でも頻出分野の微積分の微分の問題が載っているページを開いて、その場で解いてもらうことにした。

 知美が実際に解いている様子を見ていて、今日子が仰天するのも無理はなかった。単なる分数関数の、公式通りに計算すれば良いだけの問題が、全く解けていないのである。

(教科書レベルさえ固まっていないのに、誤った教材を使用している……)

 今日子も一応は教員志望である。それを見破るのには、そうは時間はかからなかった。

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