第52話ダーツについてその1

 ビリヤードの台の隣では、ダーツが出来るようになっている。ダーツの的と、飲み物や灰皿を置くための机とが置かれている……。

「ダーツってのは『ゼノンのパラドックス』を説明するのに、一番有効な例だと、俺はそう思っているのね」

「何ですか? その『ゼノンのパラドックス』って……」

「名前も聞いたこともないのかい?」

「うん」

(まあ『ゼノンのパラドックス』は高校の範囲外だからな)

 そう思った徹也は『ゼノンのパラドックス』の説明を、秀美にしはじめた。

「その『ゼノンのパラドックス』っていうのは要するに、ダーツで言えばダーツを投げて手から離れる。その瞬間だけを切り取れば、まるでスナップ写真のように止まって見えることだろうと。それで、どの瞬間を切り取ってもダーツは止まっているのだから、ダーツは動いていないという理屈になる……。というのが『ゼノンのパラドックス』の言い分なのね」

その説明を聞いて、秀美は困った顔をして、

「でも変だよね。ダーツは実際に投げている人の手を離れて、投げた人のいる場所から距離が離れた的に刺さるんだから」

 すると徹也は秀美に、こんな説明をした。

「ゼノンのパラドックスってのは、要するにダーツを例に取れば『ダーツの位置』と、位置の時間に対しての変化の割合を表す『ダーツの速度』をゴッチャにして考えたことによって発生する矛盾なのね」

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