第51話ビリヤードその3
そこまで言った徹也は「さあ実際にやってみようか」といった様子で、慣れた手つきでキューを持つ。
「左手のキューの構え方は、本当は三種類あるのだけれども、三つ目は俺もよく覚えていないし、実際には次の二つを覚えておけば十分なのね」
そう言って徹也は、手玉をキューで突くのを、秀美に実践して見せてみる。
「キューを突くときは、基本的には肘だけの力で行なうことになるのね」
徹也は秀美の前で何度か実践して見せると、今度は秀美に「実際にやってみるかい?」と聞いてみた。秀美は当然「やってみる」と言う。
そして六回ほど一つの的玉に、手玉を突いたところで、手玉がピタッと、その場に止まった。
「今秀美が付いた手玉が、完全にその場にピタッと止まっただろう。これが何を意味するか分かるかい?」
秀美は「わからない」という声を発して、そういう顔をしたので、徹也は説明を加える。
「つまり手玉の運動エネルギーが、的玉に完全に『移った』のさ。だから手玉が衝突地点で完全に止まって、的玉だけが動いたのさ。これは完全に手玉をきちんとキューで突けないと出来ないことでね。つまり突くという意味では完璧な一突きだったってわけなのね。はじめてビリヤードやる初日でこれが出来る奴って、なかなかいないからね! もしかしたら秀美、お前さんってビリヤードの才能があるのかもしれないよ!」
秀美は徹也が話している、物理的な意味は分かっていない様子だったが、とにかく良いショットが出来たことだけは、理解した様子だった。徹也が、
「まあビリヤードは一種のスポーツでもあるし、また趣味でやるものだから、あんまり基礎練習ばかりやっていても、そのうち退屈になってきて、飽きてしまうから、手玉を突く基礎練習と、ときどき的玉を用意して、それをポケットに沈める練習を、上手く混ぜながらやるのが、ビリヤードを続けるための、一種のコツなのかな? と、俺は思っているのね」
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