第31話雪絵と重森その9
午後十時を過ぎても帰ってこない娘を心配してか、雪絵の母親は帰ってきた雪絵にこう声をかけた。
「雪絵。帰りがやけに遅かったわね。どうしたの?」
雪絵は「病院が終わった後で、一人で映画を観てきた」と、あえて重森と観てきたと、重森の名前は出さなかった。雪絵の母親は心配そうに、
「そう……。明日アルバイトでしょ? 薬飲んでいるのだから、この時間に寝て明日朝ちゃんと起きられそう? 何なら明日起こしてあげようか?」
と言った。それに対して雪絵は、
「うん……今日はもうシャワー浴びて寝る……明日もしどうしても私が朝起きられなかったら……朝起こして……お願い……」
雪絵は母親にそう言うと、シャワーで頭と体を洗い、歯を磨くと、薬を飲んだ。ただしいつもの長い作用時間のサイレースではなく、レンドルミンの方を飲んだ。意外とすぐに眠れたのが不思議だった。
次の日の夜に、雪絵は瞳に、映画を観に行った報告の電話を架けた。瞳からは第一声として、
「ユッキー、彼氏との初デートの映画はどうだった? 面白かった? 楽しめた? 」
そう瞳が電話で聞いてきたので、雪絵は重森が別に彼氏ではないし、またデートのつもりで映画について行ったのではないことを伝えた上で、映画の上映中に疲れ目の症状が出てしまって、特に後半の方はよく覚えていないことを伝えると、
「ラストのなのはたちの砲撃のシーンが、一番の見どころなんだけれどね。でもユッキーにとってははじめてのデートだったわけでしょ? でもさっきいも言った通り、初デートにしては、上出来だったんじゃないの?」
瞳が再度重森と行った映画のことを『初デート』と連呼するので、雪絵は、
「デートのつもりで……行ったんじゃないのだけれども……」
そう瞳に対してそこのところを強調して説明をしようとするも、瞳は、
「その『重森君』って男の子と、関係が長く続くと良いね!」
と言って、瞳からの電話はそこで切れた。
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